社会保険労務士・社労士をお探しなら、労務管理のご相談ならSRアップ21まで

第91回 (平成21年8月号)

派遣社員にどこまで注意できる?
「私はこの会社の社員ではありませんよ!」

SRアップ21東京(会長:朝比奈 広志)

相談内容

「自分の仕事を早く片付けて、同僚や他部門の応援を積極的にしよう…」今月のK社長の目標が発表されました。K社長は毎月このような目標を立てることで、職場環境の改善に努めています。朝のあいさつ運動…整理整頓…これまでにもいろいろな目標を掲げてきましたが、効果があるのかどうか、社員たちの反応はいまいちのようです。
ある日のこと「派遣社員だって、同じ職場で働いているのだから、わが社のルールに従ってください…」総務係長のRと派遣社員のY子が口論しています。「私は経理業務で契約しているのですから、社会保険の手続書類なんて作成しませんよ」とY子。「そうは言っても、部長が帰社しなければ、今のところ仕事がないでしょ、このデータをその書類に転記するだけだからいいじゃないか、今月の目標を知らないの…」R係長もだんだん興奮してきて、普段から気になっていたY子の服装(ジーパン)や直接専務や社長に社員の中傷メールを送っていることなどを取り上げて、Y子を攻撃してしまいました。案の定、Y子は「私は社員ではありません」と泣き出してしまい、一転R係長は謝罪するしかない事態となりました。
その後、K社長がR係長、Y子から事情を聴取し、何とか一件落着しましたが、その経緯の中で派遣社員の勤務態度や専断的言動が職場でかなり問題化していることがわかりました。「派遣社員に対して、もっと注意・指導しなければだめじゃないか!わが社の社風が悪くなる…質の悪い派遣は契約解除しろ!」と部長たちを集めてK社長が叱咤すると、「しかし、社長、あまり厳しく言うと、セクハラだ、パワハラだ、下手すると契約違反だ、派遣切りだ、なんていわれかねないですよ…」経理部長の話に一同沈黙してしまいました。

相談事業所 C社の概要

創業
平成3年

社員数
32名(契約社員5名 派遣社員7名)

業種
精密機械輸入販売業

経営者像

外資系企業のC社K社長は45歳、5年前からC社の経営を任されています。何事もビジネスライクに事を進めるK社長ですが、職場環境に関しては日本人的な発想が色濃く反映し、若い社員からは少し煙たがられているようです。


トラブル発生の背景

派遣社員を適法に、また効率よく活用している企業は少ないかもしれません。果たして、派遣社員に対する指揮命令の範囲はどの程度まで可能なのでしょうか。

自社社員と派遣社員との協調をどのように図るのか、派遣社員に関する社員教育など、またまだ課題の多いC社です。

経営者の反応

「派遣会社からクレームがきたが、こちらもクレームを言っておいた…」部長会議でK社長が話しています。「派遣はやめて、契約社員を増やすようにしましょうか…」営業部長が発言すると、「派遣といっても、昔と違って都合よく使えないしね…」と経理部長も賛成しました。「おいおい、ヘッドカウントの問題があるので、そうそう直接雇用はできないよ、本社に相談してから決めないとね」とK社長が釘を刺し、「いずれにしても、現在契約中の派遣社員については、正すべきところは早急に是正させることだ、近いうちに専門家に相談してみるよ」というK社長の言葉で部長会議が終了しました。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:市川 和明)

派遣社員への指揮命令の範囲
一般に、従業員は、労働契約で定められた範囲で業務命令に従う義務があるとされ、就業規則に配転を命じることがある旨の条項があればもちろん、それがなくとも個別に仕事内容や就労場所等を限定する合意がない限り、会社は、仕事内容等についての包括的な決定権限を有し、合理的かつ相当な配転や転勤を命じることができるとされています(電電公社帯広局事件・最高裁昭和61年3月13日労判470-6、東亜ペイント事件・最高裁昭和61年7月14日・判時1198-149、労判477-6参照)。
C社は、就業時間中であれば、手の空いた従業員に対し、指揮命令権を行使して、今月の目標に取り組むよう、同僚や他部門の応援という一時的な配転命令をすることができると考えられます。
では、派遣社員に対しても、C社社員と同様に考えることができるでしょうか。総務係長のRは、同じ職場で働いているのだから、会社のルールに従うよう派遣社員のY子に要請していますが、Y子は「私は経理業務で契約している」として社会保険の手続書類の作成を拒否しています。C社はY子に社会保険の手続書類の作成を命令できるでしょうか。
労働者派遣では、派遣先は、派遣元との派遣契約で定められた業務について、派遣社員に指揮命令できるという関係にあります(派遣先と派遣社員との間には、雇用関係はありません。)。また法律では、派遣契約で派遣社員が従事する業務内容を特定し、業務内容は派遣元から派遣社員に明示することが義務づけられています(通称「労働者派遣法」26?(1)、34?(2))。いわゆるガイドラインでも、派遣先は、実際に派遣社員に業務を命じる自社の従業員に、就業条件を周知させて、契約内容に違反しないよう指導を徹底しなければなりません(派遣先が講ずべき措置に関する指針(H11.11.17労働省告示138))。よって派遣先は、派遣社員に派遣契約で定められた業務以外の仕事を命じることはできません。
もっとも、手が空いていて暇そうな派遣社員に任意に協力を求めることは構いませんが、それがトラブルにならないような信頼関係を築くことができる場合に限るべきで、法律の趣旨からすれば、原則として任意の協力要請も控えるべきでしょう。
もし、それ以外の業務をさせたければ、派遣元との間で、派遣契約の内容の追加変更を合意するなどの措置が必要になります。
そのため、派遣先のC社は、経理業務で契約しているY子に対し、社会保険の手続書類の作成を命じることはできません。本件ではR係長とY子が口論になってしまっており、もともと任意の協力も控えるべきだったというべきでしょう。
また、本件のように、派遣社員があらぬ誤解を受けて、無用なトラブルが起きないように、C社社員らに対し、派遣社員の地位(C社と雇用関係がないことやC社就業規則の適用がないことなど)について周知徹底する必要があります。

派遣社員の問題行動への対処
K社長が、R係長とY子へ事情聴取する中で、派遣社員の勤務態度や専断的言動が職場でかなり問題化していることが判明したため、部長を集めて派遣社員に対する注意・指導を指示し、質の悪い派遣は契約解除しろとまで言っています。
問題のある派遣社員に対して、会社はどのような対応をとることができるでしょうか。
一般に会社には職場の秩序維持権が認められていますので、業務命令にしたがうこと、職務に専念すること、風紀秩序を維持することを求めることができます。
ですから、風紀を乱すような服装の派遣社員に対しては、それを是正するよう求めることができます。
本件では、Y子がジーパンで働いているようですが、C社は精密機械輸入販売業で、Y子は経理業務を担当しているとのことです。昨今の職場での女性のジーパン姿も珍しいものではありませんし、その業務内容に照らして必ずしも風紀を乱すというほどのことはないように思われます。
また、本件では、Y子の中傷メールも専断的言動として問題になっているようです。これが他の社員の名誉を毀損したり侮辱するような根も葉もない中傷メールであるとすれば、風紀を乱す言動として、是正を求めることができるのはもちろん、これにより他の社員が体調を崩したりして業務に支障を来してC社が損害を被れば、不法行為(民法709)としてY子に損害賠償請求することも考えられます。派遣元にも使用者責任(民法715)を追及する余地もありますが、C社の指揮命令に問題があれば派遣元の責任は限定される可能性があります(テンブロス・ベルシステム24事件・東京地裁平成15年10月22日判決・判時1850-70、労判874-71)。
Y子がC社の命令に従わず、派遣契約の目的を達成できないような場合は、派遣社員の交替や派遣契約の解除も可能と思われます。
なお、C社とY子には雇用関係がないので、C社がY子を懲戒処分をすることはできません(派遣元は派遣社員を懲戒処分できます。)。
C社では、全く派遣社員に頼らないという訳にもいかないようです。そこで、Y子の行状を書面等で証拠化して、派遣元に対し、派遣社員の交替やY子に対する懲戒処分を申し入れることが考えられます。

派遣社員へのセクハラ・パワハラ
R係長は、興奮してY子の服装や社長らへの社員の中傷メールの送信などを指摘してY子を攻撃し、泣かせてしまっていますが、R係長の言動が行き過ぎた場合、どのような問題があるでしょうか。
性的な言動に及べば、セクシャルハラスメント(セクハラ)となり、職務上の地位を利用した嫌がらせとなれば、パワーハラスメント(パワハラ)となり、R係長はY子から不法行為として損害賠償請求を受ける可能性があります。C社も使用者責任を問われる可能性があります。
また、派遣先は、派遣社員の労務提供の際、生命身体の安全に配慮する義務(安全配慮義務)(アテスト事件・東京地裁平成17年3月31日判決・判タ1194-127、労判894-21)のほか、働きやすい職場環境を保つよう配慮する注意義務(職場環境配慮義務)も負っているとされています(福岡セクハラ事件・福岡地裁平成4年4月16日判決・判例時報1426-49、労働判例607-6参照)。
その結果、C社は安全配慮義務ないし職場環境配慮義務違反による損害賠償責任も負う可能性があります。
以上のような問題があるので、派遣社員に対する秩序維持権の行使に際し、カッとなって感情にまかせた言動は厳禁です。問題の程度に応じ、前記のような派遣元への申入れを念頭においた冷静な注意指導が肝要です。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:川崎 秀明)

労働者派遣は、雇用主と指揮命令者が異なる就業形態であるため、とかく、一般の上司と部下の関係に比べ、意思の疎通を図りにくいということはよく聞く話です。それでなくとも、長期間、人事異動や新卒社員の採用などが行われていない部署では、外部から来た派遣スタッフにとって、馴染みにくい職場環境となり易いものです。しっかりと仕事の指示を与え、指示が正しく伝わったかどうかを確認することが重要です。
職場の中で、人間関係などで悩みを抱えていないか、もし、仕事に意欲的に取り組めていないとしたら、何が原因なのか、上手にコミュニケーションを図りたいものです。
本来、労働者派遣を受ける際に、締結した「労働者派遣契約書」に定められた業務の範囲を超えて派遣スタッフに対して業務を行わせることはできません。
これらの書面で示された業務に付随する業務は契約内容業務と考えられますので、依頼された「社会保険事務」処理が「経理業務」の付随業務といえるかどうかが問題となります。一般的に社会保険や労働保険の事務は、それ自体、独立した業務であり、「経理業務」とは、別個の業務と考えられます。とはいえ、社会保険等の事務処理の延長線上に出入金を伴う業務も不可分の業務としてある訳ですから、その限りでは「経理業務」と重なる、ともいえそうです。
「私の仕事ではない」と主張する派遣スタッフにも少々硬直した姿勢が見えますので、時間をとり、冷静な話し合いの場を設けるべきではないでしょうか。もっとも、これらの問題で揉めないようにするには、「労働者派遣契約書」で、はじめから「経理業務及び、その付随業務など」と明記することが大切なことは言うまでもありません。更に言うなら、例えば、専門26業務の他に、「お茶出し」などのいわゆる自由化業務も頼みたい場合は、「労働者派遣契約書」や「就業条件明示書」などで明示しておく必要がある、とさえ考えられていますので、派遣スタッフを活用する業務を適切に選ぶということは非常に重要なことです。派遣会社に依頼する際に業務内容等に関して、(1)業務内容(できる限り具体的に) (2)必要なスキル(〔例〕ワードやエクセルをどの程度まで使えるか) (3)必要な経験(〔例〕金融機関等に〇年以上勤務した経験があること) (4)必要な資格 (5)自動車通勤の可否 (6)備品、貸与品 (7)喫煙対策(禁煙か分煙か) (8)受け入れる部署の人数 (9)服装 (10)利用できる福利厚生施設 (11)夏期、年末年始休暇等の有無、等々を正確に伝えておくことで、これらのトラブルを防ぐことができるはずです。
また、派遣スタッフの就業期間が長くなると、当初の労働者派遣契約書で定めた業務以外に別の業務を依頼する必要が生じたり、社内体制の改変などから、本来の依頼業務自体が変化したりすることもあるでしょう。このような場合は、労働者派遣契約の変更が必要になりますので、早目に派遣会社に相談をしましょう。

いずれにしても、就業中の派遣スタッフの職業能力とミスマッチが生じないか、負担が増加しないか、自社の都合だけを優先させず、慎重な検討が必要です。

【記載例】
「就業条件明示書」の従事する業務の内容
・日本語ワードプロセッサー業務。作成すべき書類は会計書類とする。
(この業務に従事するためには、1分間60ワード以上を操作できる程度の能力を必要とする。なお、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行令第4条第5号事務用機器操作に該当)
・付随業務として、帳票を打出し、営業所の宛先別に仕訳する業務を行う。
・付随的業務として、営業所宛に当該帳票の梱包、発送の業務を行う。

派遣スタッフと上手につき合うコツは、派遣スタッフを活用するのは派遣先の会社だが雇用しているのは派遣会社である、という三者関係を十分に理解することです。派遣されてまだ1?2ヶ月しか経っていないのに、年休を取りたいと言われること(派遣会社に雇用されて6ヶ月間継続勤務していれば権利は発生します)もありますし、産休や育休の申し出を受けること(派遣スタッフには雇用主である派遣会社にこれらの休業を請求する権利がありますので、派遣会社へ申し出るよう伝えること)もあります。
また、派遣スタッフから苦情の申し出を受けた場合、派遣元と派遣先は密接に連携をとって、誠意をもって速やかに対応しなければなりません。派遣スタッフから苦情を受けた場合は「派遣先が講ずべき措置に関する指針」に従った対応を心掛けましょう。
なお、苦情の申出を理由とする不利益取り扱いは禁止されています。この「不利益な取り扱い」には、苦情の申し出を理由として、業務量を増加させたり、派遣会社に対して交替を求めたり、労働者派遣契約の更新をしない、などの行為も含まれ、苦情の申し出を受けたことを理由とする労働者派遣契約の解除は、派遣法第27条に違反する行為に該当しますので、注意しましょう。その他、派遣スタッフに対しては、雇用申し込み義務や雇用努力義務が発生する場合がありますし、最近では紹介予定派遣における契約終了前後の法律関係が複雑になってきていますので、無用な法的トラブルや誤解を生じないよう心掛けましょう。

最後に、労働基準法等の規定の適用について触れておきます。
まず、労働基準法の適用関係では、派遣法第44条が、派遣先事業主もまた、派遣労働者を使用する事業主とみなして労働基準法の規定を適用する、と特例を設けています(派遣先事業主と派遣労働者の間には雇用関係はないが、実際に派遣労働者が指揮命令を受け業務に従事しているのは派遣先事業所であるため)。例えば、派遣先は、派遣元が36協定により定めを設けた場合等を除いて、派遣労働者に週40時間、1日8時間を超えて労働させることはできません(労働基準法第32条)。
また、労働安全衛生法の適用については、やはり、派遣法第45条で、派遣労働者も派遣先に使用される労働者とみなして、安全衛生法に関する規定を適用する、という特例が定められています。
同様に男女雇用機会均等法の適用に関して、派遣法では派遣先を雇用する事業主とみなし、均等法第21条から第23条の規定を適用する、としています(法第47条の2)。従って、派遣先には、セクハラ防止のための配慮義務や妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置についての実施義務が発生することになります。以上のような派遣元と派遣先の責任分担については充分な注意が必要です。

税理士からのアドバイス(執筆:山田 稔幸)

本件について、派遣先企業であるC社の視点で、(1)人件費の観点からの派遣社員の活用と問題点、(2)派遣社員に対する福利厚生の適用、(3)派遣社員へ直接金銭を支給した場合の税務処理、(4)その他税務上の留意点についてご説明いたします。

(1)人件費の観点からの派遣社員の活用と問題点
(1)採用・管理のコストダウン
派遣社員活用のメリットには、募集・採用費、管理コストの抑制ができることが挙げられます。職務遂行能力のある人材を募集・採用費をかけずに、派遣会社への依頼のみで確保できるからです。
派遣社員は、派遣先企業と雇用関係がないため、雇用調整のコストを掛けずに、業務量の変動にあわせて活用人数を調整することができます。さらに労働・社会保険の手続などは、派遣社員を雇用している人材派遣会社が行うため、派遣先企業としての手続は不要であり、これらの事務管理コストがかかりません。
(2)人件費の観点からの有効性
人件費は、給与のほか通勤交通費、社会保険料などの正社員に係るコストの全てを含んだ固定費で、売上、利益の有無に関わらず支払わなければなりません。そこで、派遣社員を活用することで固定費を変動費化できます。
また、正社員2人のコストと派遣社員3人のコストが同じであれば、派遣社員を3人採用する考え方もあります。これは、業務を少人数で属人化すれば個々への負担増、仕事の非効率化というリスクが生じるため、予算の範囲内で、なるべく多人数を雇用することがリスクの分散になるという考え方によります。
パート社員や契約社員を採用するか、派遣社員を活用するかの選択は、業務の内容や業務遂行に必要なスキルの内容、人員補充のニーズの緊急度、その人材を活用する期間にも影響されます。人材がすぐに必要で、募集広告等の採用活動を行っている時間がないときには、派遣社員を活用することで迅速に人材を確保することができます。派遣社員を使うことによる人材派遣会社へ支払うコストの相対的な高さと、人材が確保できないことによりその業務が遂行できなくなることの損失とを比較検討して選択する必要があります。
継続的に派遣社員を活用する場合、募集・採用コストがかからないというメリットは派遣期間の長期化とともに薄れ、代わって、時間あたりコストの高さがデメリットとして大きくなってきます。
(3)派遣社員活用の問題点
派遣社員を活用する場合とパート社員や契約社員を直接雇用する場合との大きな違いとして、派遣先企業は、派遣社員に対して書類選考や面接試験といった方法により、派遣社員を自社で選ぶことができないことが挙げられます。派遣元企業への自社の業務内容、依頼する仕事に必要なスキルレベル等の情報提供が重要であり、この点には注意する必要があります。
(4)派遣社員を活用した場合の消費税上のメリット
消費税は、売上の際に顧客から受け取る消費税から仕入や経費の代金を支払う際に含まれる消費税を差引計算し、その差額を納める税金です。
正社員の給与は、その支払いには消費税が含まれていません。一方、派遣社員を利用した場合の人材派遣会社への派遣料の支払いには消費税が含まれています。
正社員への給与、社会保険料には消費税が含まれていないので、いくら正社員に給与を支払っても納付する消費税が少なくなることはありません。これに対して人材派遣会社に支払う派遣料は消費税が含まれていますので、納付する消費税は少なくなります。
したがって、正社員を雇用するより人材派遣会社を利用した方が、たとえ同じ金額の支払いであったとしても、会社の消費税の納付額が少なくなります。

(2)派遣社員に対する福利厚生の適用
税務上は、直接雇用関係のない派遣社員の経費を派遣先企業が負担する場合に、この支出が交際費等に該当するかが問題となります。
親睦のため忘年会、社員旅行などに正社員と共に派遣社員が参加した場合、社会通念上認められる範囲内であれば、業務委託のために要する費用等として福利厚生費としての処理が可能です。また、経常的に業務に従事している派遣社員に対する社内業務にかかる費用は、正社員に対する費用と同じ基準により社会通念上認められる範囲内であれば、派遣先企業の経費となります。
通勤交通費は、派遣社員の場合、給与と別途支給されるのではなく、時間給の額に加味されていることも多く見受けられます。派遣元企業が給与と通勤交通費を別口で支給しない限り、通勤手当の非課税規定は派遣社員には適用されません。

(3)派遣社員へ直接金銭を支給した場合の税務処理
雇用形態に関係なく長く在職して欲しいと考え、『ホンの気持ち』として直接派遣社員に寸志を包んで渡される経営者も見受けられます。派遣先企業が派遣社員に直接金銭を支給する場合には、派遣先企業と派遣社員との間に雇用関係はありませんので、給与として処理することはできません。
この金銭の支払いは、事実関係にもよりますが、交際費と認定される可能性があります。「本来支払うべき契約上のものは人材派遣会社に支払っていると考えた場合、その派遣社員の関心をかうために支払っていると考えられるからです。」なお、「本来の業務時間外にも働いてもらおう」という狙いで現金を直接渡した場合には、派遣会社との間で重大な契約トラブルが発生する可能性もありますので注意が必要です。

(4)その他税務上の留意点
中小企業の人材投資促進税制(制度の内容についてはここでは触れません。)の対象者は、自社の使用人です。ここで、使用人とは、正社員、契約社員、パート、アルバイトなど自社と雇用関係のある者です。派遣社員は、派遣元企業と雇用関係があるため派遣元企業の対象者となり、派遣先企業では指揮命令関係にあるものの、雇用関係がないため原則として対象者とはなりません。
しかし、次の条件をすべて満たす場合には、その企業の職務に必要な技術叉は知識を習得させ、叉は向上させているものとして派遣先企業が負担した派遣社員の研修費用等は、派遣先企業の教育訓練費に含めることが認められています。
(1)派遣社員が派遣先企業に使用される正社員と同一の業務を遂行していること。
(2)正社員等を主体とした同一の職務に係る一の教育訓練等に参加していること。
つまり、上記の条件を満たせば、派遣社員の研修費用等も教育訓練費として通常の社員の研修費用等と同様に教育訓練費に含めることができ、人材投資促進税制の適用を受けることができます。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
SRネットは、全国展開に向けて活動中です。


SRアップ21東京 会長 朝比奈 広志  /  本文執筆者 弁護士 市川 和明、社会保険労務士 川崎 秀明、税理士 山田 稔幸



PAGETOP