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第8回  (平成14年10月号)

業務委託契約者(事業者)が
在宅勤務者(雇用関係)であると主張!

SRアップ21熊本(会長:元田 克秋)

相談内容

J社は、上場企業に勤務していたM社長が中心となって、当時の部下を集めて10名で業務をスタートしました。
開業当初からある程度の見込み客があったこともあり、業績は順調に推移し、創業2年目には社員数も倍になるという勢いでした。

この頃から、賃金の固定経費化、各種社会保険料の負担が気になり始め、「社内独立制度」「在宅勤務」「独立支援制度」などに興味をもつようになり、まずは、「業務委託契約者」を募集するようになりました。
労働法や税務関係には無頓着で、自分が知っている限りの一面的な知識で、業務委託契約者としての処遇を決定していたようです。
その後もある程度仕事のできる人材は正社員ではなく、業務委託契約を締結した上で、出来高制による外注費を支払っていました。
このような状態から、年々「業務委託契約者」の数が増加し、最近では「固定保障」を支払う業務委託契約者まで出る始末です。

ある日、業務委託契約者の一人が打合せのため、J社に出向く途中に駅の階段から転落し、大けがを負ってしまいました。

相談事業所 J社の概要

創業
平成9年

社員数
28名(業務委託契約者 32名)

業種
業務用ソフトウエアの開発・販売

経営者像

46歳、現行法規ではなく、都合の良い部分の他社成功事例を重視するようなタイプ


トラブル発生の背景

M社長は、労働法、税務関係等十分な知識を持ち合せていませんでした。
通常の経理事務は、M社長の奥様が行ない、決算業務のみM社長の大学時代の友人である税理士が行っていました。
また、労働・社会保険業務については、M社長の指示により勤続3年の女性事務員が最低限の処理をしているような状態で、社内を見渡しても、技術や営業社員ばかりです。
このように総務・経理に関しては、専門的なブレーンもいないまま、「人」の管理を行っているような状況でした。
社員よりも「業務委託契約者」が多い割には、「契約」「委託」「雇用」という法律用語を正しく理解していないことはもとより、実務上の運用が不適当であったことは明白です。
その結果、業務委託契約者に事業者としての自覚がありませんでした。

今回は「雇用と委託」という問題を、SRネット(social resources net work)熊本が専門的な解説を含め、問題解決の手順をご紹介いたします。

経営者の反応

М社長が、被災者に「外注なのだから、労災保険は使えない」と言ったものですから、ことが大きくなってしまいました。
被災者は、「業務中なので国民健康保険は使えない、と病院から言われた。」と再度М社長に詰め寄りました。М社長は、できないものは仕方がない、と取り合いませんでした。
しかし、被災者から「メールで業務の進捗状況を管理され、定期的に会社にも来ている。固定保障という一種の手当もあることから、自分は労働者だ。」と言われ、少し慌てました。
さらに被災者が「契約書、報酬支払明細書をもって、労働基準監督署に相談に行く。」といったところで、M社長も自信がなくなってしまいました。
「専門家に相談する」と被災者を何とか落ち着かせて、その日は帰宅させたものの、病院への支払もあります。
早く解決しなければと、ホームページから「SRアップ21」を探し出しました。

  • 弁護士からのアドバイス
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弁護士からのアドバイス(執筆:高野 正晴)

М社長の話によると、J社と被災者間は業務委託契約を締結しているということでしたが、その内容を確認してみると、次のような点がはっきりしました。

(1) J社が被災者にソフトウエアの開発を委託する
(2) 被災者はソフトウエアを開発する
(3) 出来高制による外注費を支払う、ただし、月額固定経費として100,000円を支払う

 

このように他人の労務の利用を目的とする契約としては、民法上、雇用、請負、委任があります。また、労働法上は労働契約がありますが、民法上の雇用と同様に考えます。
M社長が社員ではなく、「委託契約者」を活用する意図は、賃金の固定経費化、社会保険料の負担をなくすことにあったわけですから、その時点では雇用ないし労働契約を本旨としていないことは確かです。
業務委託という契約形態にしたのもそのためと思われます。しかし、この契約が単純に雇用ないし労働契約ではないとはいえません。
ここで、各契約の特徴をみてみましょう。

雇用ないし労働契約は、労務に服すること、すなわち労務それ自体の給付を目的とし、かつそこでの労務給付は使用者の指揮命令のもとに行われます。
請負は、建築が典型的な例ですが、仕事の完成を目的とするものであり、労務は請負人の自主性のもとに行われ、仕事の完成がなければ報酬を得られないというものです。
委任は、医師と患者との関係を例にとると、労務それ自体の給付を目的としますが、受任者は自己の裁量で所定の事務を処理するという意味で独立性を有しています。

 

さて、それではJ社と被災者の契約内容を吟味してみましょう。
J社が被災者に出来高制による外注費を支払っていたという点からは、請負に該当するようにも思えます。しかし、固定保障という手当があったことやメールで業務の進捗状況を管理され、定期的に出社していたという被災者の主張が正しければ、雇用ないし労働契約に該当すると思われます。
このような状態では、一般的に「J社の指揮監督下における労働であり、その対価として手当があった」と考えることが自然でしょう。 被災者との契約をM社長の当初の意図どおり雇用ないし、労働契約にしないのであれば、その業務委託契約書の内容は、「ソフトウエアの開発という仕事の完成に対して手数料を支払うという」ことに限定した請負契約書でなければなりません。
固定保障や進捗状況の管理、定期的な出社などを約束してはならないのです。
自己の管理下で、「都合よく人を使う」ことばかりを考えてしまうと、М社長と同じような過ちを犯す可能性があります。

現代社会においては雇用、請負、委任の区別が分かりにくくなっています。よって、トラブルが発生した場合には、契約書の書式にとらわれずに、その業務の実態により判断されることになっています。

 

 

今回の場合は、被災者が労働法の保護を受ける者かどうかということを、J社との契約関係で判定することになりますが、先述の通り、被災者の労働者性はかなり強いものといわざるを得ません。
この結論をもとに、社会保険労務士が中心となって、被災者に関する事務処理と今後のJ社の人事・労務管理体制の立て直しを進めることにしました。

 

最近の判例から
取締役の場合 長野地裁松本支部 平成8年3月29日
取締役就任後、支給金員の名目などに変更はあったが具体的な職務内容には変わりがないこと、支店業務に関して独自の決定・実施権限はなく、日常的に営業内容などについて本社に報告し、その具体的な指示に従って業務を行っていた事案で、取締役は労働者たる地位を喪失していないと判断された。

 

トラックを持ち込んで会社の指示に従って運送業務に従事する運転手
最高裁平成8年11月28日
自己所有のトラックを持ち込んで、自己の危険と利益の下に運送業務に従事していたこと、会社の指示は運送物品、運送先、納入時刻にとどまり、それ以外に特段の指揮監督を行っていないこと、時間的、場所的拘束は他の従業員と比して、はるかに緩やかであることなどの事情から、労働者にはあたらないと判断された。

 

学校法人の専任講師の場合 福岡地裁小倉支部 昭和58年5月24日
毎週学校が定めた日時に授業を担当していたこと、出勤簿への捺印を義務づけていたことから、授業時間は業務を遂行している時間であり、その指揮監督下におかれているとして労働者性を肯定された。

 

病院の院長医師(雇われ医師)の場合 東京地裁 平成8年7月26日
病院の院長の肩書を与えられているが、実権はほぼYが掌握し、かつ実質的な経営者と認識し、医師もYが実質的な経営者と認め、自らはYの指示の下に診療を中心とした業務をしていたにすぎないとして、医師とY間の契約は雇用契約であると判断された。

 

芸能プロダクションに所属する歌手の場合 東京地裁 平成8年9月8日
プロダクションと歌手の間の出演契約書には、歌手はプロダクションの定めた時間内に指定する場所で出演を行い、歌手は出演時間などをプロダクションの了解なしに変更しないこと、他社交渉をしない義務を負い、プロダクションは歌手に月額30万円の出演料名目の金銭を支払うとの記載があり、歌手はプロダクションの一方的な指揮命令に従って出演し、その対価としてプロダクションから定額の賃金を受けるものであると認定して、歌手とプロダクションの契約は労働契約であると判断された。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:元田 克秋)

ある新聞が、今の職場を表して「モザイク職場」という言葉を使っていました。 正社員中心だった従来の職場から、パ―トタイマ―、アルバイト、派遣社員、出向社員、嘱託社員、業務請負社員、業務委託社員、時には外国人実習生と、その多様な雇用形態で働く現状を表現したものだそうです。
長引く不況、その影響によるリストラ、整理解雇などによって、今後ますます雇用形態の多様化は進展するものと思われます。

J社が打ち出した「社内独立制度」「独立支援制度」といったスロ―ガンは、自己実現を強く望む現代の労働者にとっては、とても夢のある魅力的な響きを持っています。企業側の事業内容しだいでは、誰でもすぐ飛びつくほど甘い言葉と言えるのかもしれません。

今回のJ社の場合は、「社内独立制度」導入の背景に「社会保険料の負担逃れ」といった、いささか不純な動機がありましたので、業務委託契約では存在しないさまざまな管理手法が「労働者性」を強く肯定していました。
弁護士や私の話から、М社長もあきらめ顔で被災者の労災保険請求について証明を行なうことに同意しました。万が一、被災者側から「労働者性の認定」について、労働基準監督署に申し立てられると、他の委託契約者の実態調査、労働保険料算定基礎調査などが予測され、J社は危機的状況に陥ることが歴然としています。
「社内独立制度」「独立支援制度」という、その制度が持っている本来の目的を見失った業務委託契約社員制度の導入であったということになれば、今回のように悪戯に紛争の種を企業内にまき散らすだけになると思います。 いずれにしろ、「業務委託契約」という言葉にとらわれることなく、実際の契約の内容と勤務実態を照らし合わせて、労働者として契約するのか、自営業者と取引するのか、正しく判断しなければなりません。

今回のトラブルは、他の委託契約者にも話が流れています。
J社、М社長の対応が注目されているのです。
М社長との勉強会が始まりました。基本を正しくふまえて、効率よく運用することがポイントです。

 

業務委託、請負、派遣、出向との管理の留意点
相手方の労働者を、自社が指揮命令できるとされる形態
在籍型出向 出向労働者と出向先との間にも雇用関係が生じるため、出向先 の指揮命令の下で業務に従事させることができる。
・労働者との関係
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労働者派遣 派遣契約により、派遣元事業主が雇用する派遣労働者を派遣先 指揮命令の下で、業務に従事させることができる。
・労働者との関係
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相手方の労働者を、自社が指揮命令できないとされる形態
請 負 仕事の完成を依頼し、完成した仕事に対して代金を支払う形態。 注文主が請負業者の労働者を直接指揮命令して業務に従事させる ことはできない。
・労働者との関係
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業務委託 事務処理など業務の処理を委託する形態。注文者が受託業者の 労働者を直接指揮命令することはできない。
・労働者との関係
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労働基準法の「労働者」の判断基準について:昭和60年12月19日
労働基準法第9条は、その適用対象である労働者を「使用される者で、賃金を支払 われる者をいう」と規定していますが、具体的な事例について、「労働者」に該当するかどうかの判断は必ずしも容易ではありません。
その判断基準については、従来の裁判例及び解釈例規に現れた事例をもとに次のように整理しています。ここでその全文を紹介するわけにはいきませんが、要約しますと労働者性の有無は、「使用される=指揮監督下の労働」という労務提供の形態及び 「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性、すなわち報酬が提供された労務に対するものであるかどうかとということによって判断される、としています。
(この二つの基準を総称して、「使用従属性」と呼びます)

税理士からのアドバイス(執筆:後藤 みどり)

J社の業務委託契約者に対する税務処理についてアドバイスします。
J社の業務受託者は、ソフトウエアの開発業務を受託している者および外注ということですが、「源泉徴収」と「消費税」について再度確認する必要があります。
要は、給与なのか報酬なのかということなのですが、労務の提供による対価が、給与(給与所得)に該当するか、報酬(事業所得又は雑所得)に該当するかの区分は、雇用契約または、これに準ずる関係に基づいて、使用者に従属して提供した労務の対価として受ける給付かどうかにより判定します。

しかし、J社のように契約書だけで判断すると、その区分が明らかでない場合には、次のような事項を総合勘案して個々の実情に即して判定することになります。

 

(1) 会社に専属しているか。
(2) 仕事を行う場合、個々の作業について指揮監督を受けているか。
(3) 勤務時間・勤務場所の拘束を受けているか。
(4) 材料の提供や、作業用具の供与、経費の負担を受けているか。
(5) その契約の内容が、その人に代わって他人にその仕事をさせてもよいようになっているか。
(6) その会社以外の仕事を行う場合、その会社の承諾を要するか。
(7) 報酬が月額等により定期的に支払われるものか、または、仕事の完成に応じて支払われるもの(請負)か。
(8) 社会保険の加入、労働組合の組織、厚生施設の利用などの制度について、一般の使用人と同様に取り扱われているか。
(9) ベースアップ及び定期昇給又は退職金の支給について、一般の使用人と同様に取り扱われているか。

 

上記の事項により、給与に該当すると判定された場合には、一般の使用人と同様に所得税を源泉徴収する必要があります。
また、消費税法における給与と報酬の区分については、原則として所得税関係と同様に取り扱われますので、給与に該当すると判定された場合は不課税仕入れとなり、それ以外のものは課税仕入れとして処理することになります。

同様に、業務受託契約者および外注業者についても、上記の判定により、給与所得として申告するか、事業所得又は雑所得として申告するかが決まることになります。
いずれにしても、J社が業務委託契約者あるいは外注業者に対して、必要以上の管理を行なえば、「労働者=給与所得」となりますので、弁護士、社会保険労務士の指導を十分に踏まえて、適正な「取引業者」に対する管理を行なうことが重要です。
業務委託契約書から見直しされることをお勧めします。

ファイナンシャルプランナーからのアドバイス(執筆:奥村 栄治)

業務委託契約者に関する企業のリスク管理から言えば、労務管理における危機管理意識が根本的に欠如していることから起きてしまった事例といえます。

まず、契約締結の際に注意すべきは次の3点です。

(1) 業務委託契約であり「労働者ではない」ことを明確にする。
(2) 労働者ではないので、業務上ケガをしても労災保険は使えないことを明確にする。
(3) 1人親方として、必ず労災保険へ特別加入させる。(業種により制限があり、今回のケースでは特別加入できない)

 

また、日常業務においては、次の2点を守ることが必要となります。

(1) 出退勤の管理はしない。
(2) 具体的な業務の指示はしない。

 

 

さて、リスクは多種多様な形で日常業務の中に潜んでおり、企業の理念や目標を実現するためには、このようなリスクによる損失に対して経済的な側面から支援する必要があります。
その一つが保険の活用です。常に先を読みながらそれに対する必要なコストを支払うことで、リスクを回避したり被害を軽減したりすることができます。 正社員に対しては、様々な形で生命保険や傷害保険を利用して、もしもの時に備えていることが多いようですが、大抵の場合、記名式になっていることが多く、正社員以外の人、つまりパート・アルバイトなどへの対応が十分ではありません。
J社のように、本来業務委託のつもりが事情によって労働者と認定された場合でも対応できるようにするためには、無記名式の保険を選ばれるとよいでしょう。

ところで、病院から言われたという「業務中なので国民健康保険は使えない」は本当でしょうか?
確かに労働者が業務上ケガをしても健康保険は使えませんので、労災保険を使うことになります。
一方、経営者が業務上ケガをしたら労災保険も健康保険も使えませんが、経営者が国民健康保険に加入しているのであれば、業務上のケガであっても国民健康保険を使うことができます。

すなわち、国民健康保険は、国民の最後の受け皿として業務上外を問いません。この事例においては、被災者が国民健康保険の被保険者であるようなので保険を使えると考えてよいと思われます。とすれば、社長はもっと上手に被災者と対応することができたはずです。

労災保険の適用の可否につての検討は他に譲るとして、ここでは労災保険の上乗せ給付とも言える「労働災害総合保険」について言及しておきます。
今回の事例は幸い死亡事故ではありませんが、ご存知のとおり、労災保険の死亡保障は1000万円程度なので、保障としては十分とは言いがたく、遺族との補償に関し、話し合いがこじれる場合が少なくありません。
この保険は、労災保険が適用された場合、つまり労災認定された場合のみ効力があります。 また、無記名式であること、割安な保険料で大型保障であることが特徴です。無記名式なので、正社員以外のパートやアルバイトの人も適用されますし、さらに保険料を安くしたいなら、通勤災害部分や休業補償部分をはずすこともできます。

「労働災害総合保険」を活用するということは、事業主にとっては、福利厚生の充実という側面から捉えることができますが、事業主責任が問われる場合である業務上災害について最低限の対策を講じておくという、企業防衛上必要とされるリスク管理の一つであるとも言えるでしょう。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRアップ21熊本 会長 元田 克秋  /  本文執筆者 弁護士 高野 正晴、社会保険労務士 元田 克秋、税理士 後藤 みどり、FP 奥村 栄治



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