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第75回 (平成20年5月号)

接待は業務?それとも役得?
…昔と今は違います…?!

SRアップ21高知(会長:岩山 隆)

相談内容

「H社の部長と食事したのはいつだったかなぁ…」とW社長が問いかけると、「そうですね、2ヶ月前くらいになりますか」とJ社のA営業部長が答えます。取引始めて数十年という顧客が多いJ社は、顧客との関係を維持するために、定期的に食事やゴルフといった顧客接待を行っています。J社の営業部隊は、A部長を筆頭に勤続5年のG社員、そして入社2年目のR社員の3名で構成されていますが、何かと問題を起こすのがR社員でした。R社員は28歳で前職は建設会社の営業をやっていたようですが、とにかく、休日や夜の接待を嫌う傾向がありました。「別に休日や夜じゃなくてもいじゃないですか、ランチでも十分だし、定期的な贈答品などでも効果ありますよ」といった感じで、従来のJ社の営業方法を批判していました。R社員の営業センス自体は悪くなく、顧客の受けも良いので、なだめすかしてR社員を使っているような状況です。
ある日の朝、「社長大変です!G社員がインフルエンザで今日のH社との食事会に出席できなくなりました…」とA部長が社長室に駆け込んできました「なに、それは困ったなぁ…君も私も予定が入っているし…ここはR社員に頼むしかないか…」とW社長が顔を曇らせました。
「急にいわれても困りますよ…」とR社員が渋ると、「君も営業なんだし、先輩がピンチのときは助けるのが男だろう」とA部長が説得します。「営業だからとか、男だからとか、言われても…予定もあるし…特別に残業手当が出るのなら考えますが…先日の日曜日もA部長の代わりに行きたくもないゴルフに行かされて、なんの手当もないじゃないですか」とR社員。「君は営業の仕事を何だと考えているんだ!」ついにW社長が切れてしまいました。

相談事業所 J社の概要

創業
昭和41年

社員数
13名(パートタイマー 4名)

業種
印刷業

経営者像

J社のW社長は67歳、パソコンの普及で事業はジリ貧ですが、特殊印刷物という付加価値で一定の顧客は確保しています。しかし新規顧客の獲得は難しく、現在の収益を確保することが精一杯のW社長です。


トラブル発生の背景

最近の営業は、“接待的”なものが少なくなったようですが、それでも人間関係に重きを置く考えの経営者がまだまだ存在します。
果たして、接待は業務なのかどうか、R社員のような考えの若者は多くいますが、精神論だけですませてよいのでしょうか。

経営者の反応

「自分にはここの営業は向いていません…納得できない仕事はできませんから…」R社員から言われると「そんな考えじゃどこに行っても勤まらないぞ」とW社長が返します。すると「労働基準法を守られた方がよろしいですよ、G先輩だって不満があるはずです。営業だから時間外手当も休日手当もないないておかしくないですか、営業手当といっても3万円じゃないですか、得意先のお守だけだからインセンティブもないし、これじゃやる気も何もでないですよ」と言うと、R社員は私物を片付け始めました。
「そこまで言うなら仕方ないな、H社の食事会はA部長頼むよ、あとは俺がやりくりする。R君は指示命令違反で懲戒解雇だ!」とW社長がR社員を睨むと、「何でもいいですよ、その方が好都合です」R社員は笑いながら会社を後にしました。
「何だあいつは…」とW社長とA部長は顔を見合わせ、どちらともなく「昔と今は違うのか…」と少し不安になりました。「今後のこともあるし、専門家に相談しておきましょうか」とA部長が進言するとW社長がうなずきました。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:参田 敦)

本件では,まずJ社W社長のR社員に対する接待の指示が業務命令として認められるか,言いかえれば接待が労働契約の内容をなしているかどうかが問題となります。
この点、判例は業務命令に関して「使用者が労働者に対して労働契約に基づいて命じうる業務命令の内容は労働契約上明記された本来的業務ばかりではなく、労働者の労務の提供が円滑かつ効率的に行われるために必要な付随的業務を含む」としています。
しかし、その業務命令も「労働者の人格、権利を不当に侵害することのない合理的と認められる範囲内のものでなければならず」、その範囲を超える場合は業務命令権の濫用となりうるとし「その合理性の判断については業務の内容、必要性の程度、それによって労働者がこうむる不利益の程度などとともに、業務命令が発せられた目的、経緯なども総合的に考慮して決せられる必要があるもの」と解しています(最判昭和61・3・13労判470号6頁)。
そこで、R社員に対して命じられた接待について検討すると、一般に労働契約において接待が業務になると明記されているとは考えられないので、「必要な付随業務」といえるかどうか、が問題になります。J社においては、印刷を業として数十年来の顧客が多く、新規顧客の獲得よりも現在顧客との関係維持が収益確保のために必要であり、有効ということです。しかし、そのような接待をしなくても、従業員それぞれが適した方法をとることで、より営業成果が上がる可能性があることや、必ずしも夜間の接待や休日のゴルフ接待によらなくても、ランチの接待や定期的な贈答品を贈ることでも顧客関係が維持できる可能性もないとはいえません。さらに、平日夜間や休日に頻繁に接待を行わなければならないとすると、労働者の私的な行動の自由が制限されるという点も考慮しなければなりません。
このように考えると、頻繁ではなく、定期的に行うといった接待であり上記のような必要性があるということであれば、合理的な範囲であって、業務命令として許されるといってよいでしょう。
次に、接待が業務として認められる場合は、一般に時間外および休日に行われる接待について、労働基準法上の「労働時間」との関係を注意しなければなりません。
すなわち、常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、労働時間を就業規則に記載し(89条1号)、法定労働時間(32条)を超えて労働をさせる場合は、過半数従業員の代表者との書面での協定を締結して、労働基準監督署に届け(36条)、割増賃金を支払わなければならない(37条)とされているため、いかなる業務がこの「労働時間」に該当するのかということが問題だからです。
この点、判例は(1)法32条の労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいい、(2)その指揮命令下に置かれたと評価できるか否かは当事者の合意とは無関係に客観的に定まるものであるとしています(最判平成12・3・9民集54巻3号801頁)。
一般的には、営業社員が個人的なつきあいを積極的に深め、今後の受注が有利になるというような抽象的な意義付けで行われる接待の場合まで労働時間と評価されることはありません。本件における接待についての詳細はやや不明な部分もありますが、新規顧客を獲得するのが難しく、そのため現在の顧客との関係を維持するのが会社の収益維持のために重要であり、社長の命令によりR社員が食事会での接待を行うというものですから、その接待を行うR社員は指揮命令下にあるということになり、J社の接待は労働時間と解されます。
したがって、そのような接待を行わせる場合には時間外手当や、休日手当の支給が必要なります。そして、その時間外手当たる割増賃金の計算や支払方法については、法37条に定める計算方法のみならず、営業手当のような定額の別手当によることも可能ですが、定額手当が法所定の割増賃金の額を下回る場合には、使用者はその差額を支払う義務があるとされています(最判平成11・12・14労判775号14頁)。
J社は、接待が業務命令なのか否か、時間外手当を支給するのか否か等の問題をあいまいなままにしてきたのが実情ではないかと思われます。
本件を機会に接待の基準や対応する社員の処遇を決めておくべきでしょう。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:秋山 直也)

営業社員は、日々の業務を社外で行うため、いつ、どこの会社を訪問し、いつ休憩するのかなどについては、営業社員自身が判断してスケジュールを立て、行動していることが一般的だと思います。そのため会社が労働時間を管理するのは非常に難しい、というのが実状です。
営業社員のように事業場外で業務に従事している場合は、労働時間の把握が非常に難しいため、労働基準法ではこのような場合に対処するため、「事業場外労働のみなし労働時間制」を設けています(同法第38条の2)。この制度は、労働者が労働時間の全部又は一部を事業場外で労働した場合において、労働時間を算定することが困難なときは、原則として「所定労働時間労働したものとみなす」というものです。つまり、実際に働いた時間にかかわらず、就業規則等において定められた時間(所定労働時間)を労働時間として算定するというものです。
また、所定労働時間を超え、かつ法定労働時間を超えて労働したとみなす場合には、当該業務の遂行に通常必要とされる時間について、書面による労使協定を締結し「事業場外労働に関する協定書」を管轄労働基準監督署に届け出しなければなりません。なお、労使協定により、みなし労働時間を定めた場合でも、それが法定労働時間を超えていない場合には、この協定書の届け出は必要ありません。
【「事業場外労働のみなし労働時間制」の適用要件】
営業社員の事業場外労働のみなし労働時間制の対象となるのは、次のいずれにも該当する場合です。
(1)労働者が労働時間の全部又は一部を事業場外で労働した場合
(2)使用者の具体的な指揮監督が及ばないため、労働時間を算定することが困難な場合
事業場外で労働した場合であっても、会社からの具体的な指揮監督が及ぶ場合には、労働時間の算定が可能であり、みなし労働時間制の対象とはなりません。これについては、次のような場合には適用がないと通達が出されています(労働省通達昭和63.1.1基発第1号)。
「事業場外労働のみなし労働時間制の適用要件に関する通達」
事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な業務であること。したがって、次の場合のように、事業場外で業務に従事する場合であっても使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はないものであること。

(1) 何人かのグループで事業場外労働をする場合で、そのメンバーの中に労働時間を管理する者がいる場合
(2) 事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
(3) 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場にもどる場合

ここで問題になるのが、(2)について、現在では携帯電話が当たり前のように普及しているので、携帯電話を持たせている場合に適用ができないのではないかということです。
しかし、この点に関しては、携帯電話を単に持っているという条件だけでなく、会社からその携帯電話で随時指示を受けながら外回りをしている場合に、労働時間の把握ができるという解釈です。そのため会社に定期的に連絡を義務付け、また会社から随時指示をしないのであれば、みなし労働時間制の適用は可能であるとされます。
これらの内容を判断し、「事業場外労働のみなし労働時間制」を導入することができれば、営業社員に対する労務管理が大幅に簡素化されるでしょう。
事業場外労働に関する協定による1日の労働時間が「9時間」であれば、1日1時間の割増賃金が必要となります。この割増賃が「営業手当」に含まれていれば、ある日の業務が12時間行われた場合であっても、協定通り9時間勤務したものとして取扱われますので、別途残業手当を支払う必要はありません。

次に、事業場外のみなし労働時間制が適用にならない場合について説明します。
たとえば、「営業手当」を固定残業手当とし、3万円支給していた営業社員が、実際は1カ月に4万円分の残業を行っていれば、追加の時間外手当として1万円を支給しなければならないことになります。
また、営業手当という名称で時間外手当を支払っている場合に注意が必要なのが、就業規則等にその旨を明確に記載しておくことです。また給与明細にも「営業手当(時間外手当)」と併記しておけば、よりいっそう明確になるでしょう。
社員の意識はもとより、労働基準監督署の調査があった場合にも残業代とはみなしてもらえず、改めて残業代を支給しなければならないという事態を招いてしまいます。このようなことになってしまうと、営業手当まで割増賃金計算の基礎部分に含めて再計算することになり、残業代そのものがより高くなり、万が一、過去2年間に遡って支給をしなければいけないことになれば、会社経営を揺るがすような恐ろしい事態となります。
なお、残業単価は基本給や諸手当の金額によって算出されるため、営業社員にごとにその単価は異なります。そのため残業計算の簡素化を目的に「営業手当」を固定時間外手当として導入する会社もありますが、営業手当を高めに設定しない限り、結局は実際の残業代を計算して差額が発生しないかを確認する必要があります。
営業社員だからといっても残業が発生する場合には、その分の時間外手当が必要になるとことをしっかりと理解しておく必要があります。

税理士からのアドバイス(執筆:藤原 高博)

会社が使う交際費等は、経営上必要な費用であり、当然、税務上も支出金額が損金となるはずですが、以下の趣旨から原則としてその全額を損金としないこととされています(措法61の4)。

(1) 冗費・濫費を抑制として企業の資本蓄積を促すこと。
(2) 国民経済的見地から、多額の資本を持つ法人の交際費等の支出による公正な取引の阻害・価格形成の歪みを防止すること。

しかし、その事業年度終了の日における資本金(出資金)の額が1億円以下の中小会社については、特別に交際等のうち一定の限度額までは損金として認められることとなっています。この一定の額は、次のように定められています。
イ 交際費等の金額が年間400万円未満の場合    交際費の金額×90%
ロ 交際費等の金額が年間400万円以上の場合   400万円×90%
たとえば、事業年度の期間1年、資本金5、000万円の会社の損金不参入となる金額は次のようになります。
イ 交際費等の金額が200万円の場合  200万円―200万円×90%=20万円
ロ 交際費等の金額が500万円の場合  500万円―400万円×90%=140万円
以上により計算した金額を法人税申告書別表四において加算することにより、法人税の課税対象となります。
このように会社の支出した費用が交際費に該当するか否かで、法人税額が左右されることになると、いったい交際費等とは何か、ということが問題となります。
交際費等とは、交際費・接待費・機密費・その他費用で会社がその得意先・仕入先・その他事業に関係のある者等に対する接待・供応・慰安・贈答・その他これらに類する行為のために支出するもの(専ら従業員の慰安のために行われる運動会・演芸会・旅行等のために通常要する費用その他の政令で定める費用を除きます。)をいうものとされています(措法61の4(3)、措令37の5)。
このように税法にいう交際費等は、一般的に使用される交際費よりも相当広く解釈されているのです。
そして、交際等に該当するかどうかの判定は、事実認定による部分が大きく、かつ、会社によっても経営上必要な費用とされることから、一つの判定基準として、以下のそれぞれの要件を満たすか否かにより判断されるものと解されています(東京高裁、平成15年9月9日判決)。

[交際費等の判定の要件]
(1) 「支出の相手方」が事業に関係ある者等であること。
得意先・仕入先のみならず、自社の役員・従業員や株主等も含まれます。

(2) 「支出の目的」が事業関係者等との間のコミュニケーションを円滑にして良好な取引関係の維持・促進を図るものであること。
支出時の事情(理由・金額等)を総合的に勘酌して判断します。

(3) 「行為の形態」が接待・供応・慰安・贈答・その他これらに類する行為であること。
飲食遊興や贈答のほか、タクシー等による送迎、その他・接待・供応等に要する全般的な行為が含まれます。
ただし、接待用の資産の取得は、これらの類する行為には、当たらないものとされています。

[交際費等から除かれるもの]
交際費等の判定は、事実認定による部分が大きいため、その性質上交際費等に該当しないものや接待等に関するものであっても、交際費等に該当しないこととするものについは、租税特別措置法及び租税特別措置法施行令においてあらかじめ限定列挙して、交際費等の範囲から除外されています。交際費等から除外されるものとして、法令で明示されている主なものは、次のとおりです。

(1) 専ら従業員の慰安のために行われる運動会・演芸会・旅行等のために通常要する費用
これらのために通常要する費用は、福利厚生費として処理されるべきものです。

(2) カレンダー・手帳・扇子・うちわ・手ぬぐい・その他これらに類する物品を贈与するために通常要する費用(措通61の4(1)―20)
これらの費用は、厳密にいえば贈答に該当しますが、贈る会社としては広告宣伝的効果を期待する部分が大きく、交際費等の範囲から除外されています。

(3) 会議に関連して、茶菓・弁当・その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用(措通61の4(1)―21)
これらの費用も厳密にいえば、接待等に類するものと考えられますが、会議に関して通常必要なものについては、会議費用の一部と考えられるため、除外されています。ここでいう会議には、商談や打合せなども含むものとされています。

(4) 新聞・雑誌等の出版物又は放送番組を編集するために行われる座談会・その他記事の収集のために又は放送のための取材に通常要する費用
これらの費用も接待等に類するものと考えられますが、出版物や放送番組の編集や取材等において不可欠なものであり、出版物等の製造原価と考えられ、交際費等の範囲から除外されています。

(5) 飲食その他これに類する行為のために要する費用であって、その支出する一人当たりの金額が5、000円以下である費用

これらの費用は、交際費等に該当する飲食費であっても、一人当たり5、000円という形式基準を設けて、その金額以下の飲食費であれば、交際費等の範囲から除外するという規定です。
ただし、社内飲食費(役員・従業員又はその親族といった社内の関係者だけの飲食費)は、この規定の適用を受けることはできません。
本件においては、J社の資本金が1億円以下であれば、交際費課税の問題が発生するので注意が必要です。また、営業手当は通常給与として費用処理されますが、会社が従業員等に対して支給する機密費等で、それが使途秘匿金(金銭の支出のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名又は名称及び住所等並びにその理由を帳簿書類に記載していないものをいいます。)に該当すれば、その支出額の40%相当の法人税額が別途加算されることになっています(措法62)。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRアップ21高知 会長 岩山 隆  /  本文執筆者 弁護士 参田 敦、社会保険労務士 秋山 直也、税理士 藤原 高博



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