社会保険労務士・社労士をお探しなら、労務管理のご相談ならSRアップ21まで

第72回 (平成20年2月号)

「社員にしてください!」
契約社員たちの訴えは…?!

SRアップ21東京(会長:朝比奈 広志)

相談内容

P社直営店舗の店長は全員が正社員ですが、委託運営の店舗については、全員が契約社員です。というのも、委託運営の店舗については、オーナーとの委託契約期間が存在するため、予定通り契約期間満了をもって業務終了となる場合もあれば、延長ということもあるため、店舗責任者も期間契約者としているからです。ある日のP社営業推進会議終了後の懇親会で、契約社員のGがS社長と話しています。「S社長、今年で2年目となりますが、何とか正社員にしていただけないでしょうか…店舗運営にも慣れましたし、ここで生活を安定できればありがたいのですが…」「しかしなぁG君、正社員にしてあげたいが、もしも委託運営が終了したら、君を配置する店舗がないのだよ、給料下げて他の店長の下で働かせるわけにもいかなし、直営店を増やすのはリスクが大きいし、私もつらいのだよ…」とS社長。その後も他の契約社員が交わりながら話をしていましたが、「あまり言いたくはないですが、正社員の○○より、私の能力が高いと思います。売り上げやパートの定着率をみてくださいよ…」とその場が静まり返るようなことをG契約社員が言ってしまいました。その場の気まずい雰囲気を何とか総務部長が取り直し、その日は解散となりました。
数日後、G契約社員を代表とした契約社員全員の署名が入った“処遇改善要望書”がS社長宛に届きました。その内容の主なものは、契約期間の撤廃、正社員と同等の処遇でした。何らかの回答をもらわなければ、退職覚悟の上ストライキを敢行するとのことです。
「困ったなぁ…労働組合じゃあるまいし、人の苦労をまったくわかってないね、やめても仕方ないか、正社員にできるのなら最初からそうしてるよ!」

相談事業所 P社の概要

創業
昭和63年

社員数
11名(契約社員21名 パートタイマー 65名)

業種
コンビニエンスストア

経営者像

P社のS社長は、58歳で隣接県含めて、20店舗のコンビニエンスストアを運営しています。直営もあれば、経営が苦しくなった個人店舗を委託運営するという形式もあります。今後も事業拡大に意欲を燃やすS社長です。


トラブル発生の背景

店舗の運営委託という仕事の請け方を考えると、S社長の考え方は正しいようにも思えます。現在の契約社員の勤続年数は3年の者が最長です。
正社員と契約社員の月給のレベルはほぼ同じです。インセンティブも同様に支払っています。異なるのは、契約社員に契約期間があることと、契約社員には退職金がないことだけです。

経営者の反応

「うちの経営形態だとやはり正社員にはできないな…直営店の社員を委託運営店舗に回して、直営店はパートでやり繰りしよう」とS社長が営業部長と総務部長に相談しています。「しかし社長、契約者の中にはGを含めて正社員以上の力量をもった者が半数以上いますよ、新たに採用するとなると大変ですよ」と営業部長。「ここは、契約社員たちを落ち着かせることと、先日の懇親会の件で、正社員と契約社員の間に溝ができつつあることを解決することが先決です」と総務部長が後押しします。
「君たちの言っていることはわかるが、果たしてどうするのかね、契約社員を社員にしなければならない法律があるのか?能力のない正社員を解雇するのかい?」S社長の問いかけに、営業部長と総務部長が「専門家に相談しましょう」と揃って声を出しました。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:松崎 龍一)

労働契約は,契約期間の定めのないものと定めのあるものとに分類することができます。労働基準法第14条にも「労働契約は,期間の定めのないものを除き,一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは,三年を超える期間について締結してはならない。」と定められています。本件の契約社員は,3年以内の期間の定めのある労働契約による社員です。契約社員は,契約期間の定めのない正社員とは異なる取り扱いを受ける場合があります。このような異なる取り扱いも,労働契約で定めていれば基本的には有効です。本件では契約社員には正社員と異なり退職金を支給しないことにしていますが,労働契約で定めていればこれも有効です。ただし,給与については,同程度の勤続年数で同一業務に従事する正社員と臨時社員との間に賃金格差があり,その程度が正社員の8割以下になるときは,同一価値労働同一賃金原則の根底にある均等待遇の理念に反し,公序良俗違反として違法になるとした判決があります(長野地方裁判所上田支部平成8年3月15日判決「丸子警報機事件」)。
一定の期間または、一定の事業の完了に必要な期間までを契約期間とする労働契約については,他に特段の事情がない限り契約期間が満了した場合は自動的に労働契約が終了します。しかし,短期契約を反復更新して長期間にわたって労働関係が継続している場合には契約の更新をしない旨の意思表示が必要になります。契約の更新をしないことを雇止めといいます。この雇止めは常に可能というわけではありません。
最高裁判所昭和49年7月22日判決(「東芝柳町工場事件」)は,有期労働契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となった場合には,雇止めの効力を判断するにあたっては,その実質に鑑み,解雇に関する法理を類推すべきであると判示しています。解雇に関する法理を類推するというのは,雇止めは客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は無効であるということです(労働基準法第18条の2)。
また,契約期間が満了しても労働者がそれ以後も労働を継続し,使用者がこれに格別異議を述べない場合は,前の契約と同一の条件で期間の定めがない契約が成立したものと推定されます(民法第629条1項。大阪地方裁判所平成9年6月20日判決)。この場合に使用者が労働契約を終了させることは雇止めではなく解雇になります。解雇は,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は無効になります(労働基準法第18条の2)。
契約社員を正社員にしなければならない法律はありません。しかし,契約期間を反復更新したり契約期間満了時に異議を述べなかったりした場合は期間の定めがない契約になってしまうことがあるので注意が必要です。
P社の契約社員の半数以上が正社員以上の力量をもっているのであれば、このような人材を活用しないのは経営上の損失です。例えば,契約社員から正社員への人材登用のための試験を設け,優秀な契約社員が正社員になれる道を開くというのも一つの有効な人材活用方法と思われます。事業の実態からすると難しいかもしれませんが、正社員になれる道が開かれれば契約社員の不満も減少することでしょう。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:藤見 義彦)

始めに「契約社員」とは何かについて確認します。そもそも「契約社員」については、労働基準法上の明確な定義はありません。
一般的に、契約期間の定めがない正社員に対し、契約期間を定めて労働契約を結んだ社員のことを「契約社員」と呼ぶことが多いようです。
ただし、契約期間の有無に関係なく、契約社員も会社と労働契約を結べば、労働基準法上の「労働者」となり、正社員と同様に会社の就業規則の適用を受けることになります。ここで、契約社員に対し、正社員の就業規則を適用しないということであるならば、契約社員独自の就業規則を作成し、管轄の労働基準監督署に届け出て、社内において周知させなければなりません。
注意すべき点は、この契約社員用の就業規則がない場合です。本人と個別に労働契約を結び、契約社員には退職金はない旨を定めたとしても、労働基準法(第93条)により(3月より労働契約法(第12条)が根拠となります)、現存する就業規則の基準を下回る部分については無効となります。なぜなら、個別の労働契約よりも就業規則で定めた基準が優先するからです。
したがって、正社員の就業規則で退職金の支給が定められ、契約社員の就業規則が存在しない場合は、正社員の就業規則が準用され、契約社員に対しても退職金を支給することが求められます。

労働基準法 第93条(効力)、労働契約法 第12条(就業規則違反の労働契約)
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則の定める基準による。

契約社員と同様に、正社員とは雇用形態が異なる、アルバイト、パートタイマー、嘱託社員、臨時職員等々が混在する場合も同様の注意が必要です。再認識していただきたいのは、アルバイト、パートタイマー等も立派な労働者ということです。労働基準法の労働者の定義(第9条)に合致する働き方をしている場合は、名称の如何を問わず「労働者」として扱われ、アルバイト、パートタイマー等独自の就業規則がない限り、正社員の就業規則が準用されるのです。もちろん、契約社員等の独自の就業規則を設けたからといって、全てが許容されるというわけではありません。

 

● 労働基準法 第9条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

 

本件においては、正社員と契約社員との処遇について、月給のレベル、インセンティブも同様とのことから、契約社員としての不利益はあまりありませんが、多くの会社では、正社員と雇用形態が異なる場合のアルバイト、パートタイマー等との処遇の差が問題となっています。
「正社員と同じ仕事をしているのに…」
「能力的にも正社員と大差がない。むしろ正社員に対して指導する立場であるが…」
など、正社員と較べて給与・賞与が少ないことへの不満の声が聞かれます。
最近は、労働者としての権利意識が飛躍的に向上しています。会社が労働条件や処遇の面で法律に則った労務管理を行なっていないことが原因で、労働基準法等の法律違反を行政機関に訴えられるケースが目につきます。トラブルの多くは、会社側経営陣の労働基準法をはじめとした法律の勉強不足に端を発するものがほとんどなのです。
この4月から、パートタイム労働法が変わります。そこでは、職務の内容(業務の内容と責任の程度)、人材活用の仕組みや運用、契約期間などの要件が、正社員と同じかどうかによる賃金、教育訓練などの待遇の取り扱いを規定しています。同一労働・同一賃金の色合いが濃くなり、処遇に関しても、今までと同じような取り扱いだと、違法となる可能性が出てくるのです。
さて、本件については、S社長が「直営店の社員を委託運営に回して、直営店はパートでやり繰りしよう」と営業部長や総務部長に相談していることからもわかるように、契約社員の活用について、経営陣が、経営者側のメリット(退職金不要等のコスト削減目的)だけを追求したために発生したトラブルです。
「委託運営が終了したら、配置する店舗がない。」「給料を下げて他の店長の下で働かせるわけにもいかない」とも言っても、あまりにも経営者側からの一方的な考え方であり、契約社員とのコミュニケーションの場が全く考慮されていません。契約社員はあくまでも雇用が不安定な状態から脱却し、生活を安定させたいと考えているのです。契約形態が契約社員から、安定した正社員に変更ということであれば、一時的に給与が下がっても良いと言うかもしれません。永年、会社に貢献してきた実績があるのですから、本人の意思を確認することが必要です。
しかし、確かに人事権については会社に帰属するものであり、「絶対に正社員にしなければならない」などということはありません。しかも、契約社員の処遇改善要望を受け入れ、全員を正社員にするということも、経営上無理な話でしょう。
P社の正社員と契約社員については、会社が求めるその役割に違いがあるはずです。まずは、その部分を明確にすることです。そして、能力がある契約社員については、処遇を見直すことが必要だと思います。
P社には、長期的で全体の業務を見添えた人員計画、定期的な話し合いの場の設定など、トータル的な人事・労務管理が求められています。
まずは、契約社員たちと話し合ってみましょう。そして、できることから改善対策に着手するというS社長の意欲をみせることが先決です。

 

税理士からのアドバイス(執筆:浅田 徳英)

P社は、契約社員のG社員を店長にして経営の苦しい個人商店を運営させていましたが、オーナーとの委託契約期間があり、この契約が終了した場合にG社員が職を失う可能性があることが本件の背景にあります。この問題を解決するための一つの方法として、オーナーとの委託契約が終了した段階で、G社員を新たなオーナーとしてP社と直接委託契約を締結することが考えられます。
そうなった場合には、G社員は個人事業主として、現在のオーナーと同じ扱いになります。今までは社員として給与を支払っていたのが、G社員は自力で店舗を運営して、本部に対するロイヤリティを支払った後の利益を獲得することになります。
税務上は、給与手当の支払から取引相手に対する売上(G社員からみると仕入とロイヤリティの支払)という関係に代わります。
このようにP社とG社員との委託契約が成立すると、G社員はP社と対等な立場ながら経営指導も受けることになります。そして一定の保証金と権利金をP社に支払うというのが一般的な展開です。
P社が行う税務処理は、保証金は委託契約が終了した段階でG社員に返金しないとなりませんので、預かり金とします。権利金は、委託契約が終了した段階で効力を失いますので、オーナーであるG社員に返金することはありません。したがって、契約締結の日の属する事業年度に返還しないことが確定したとして収益に計上します。(法人税基本通達2?1?41保証金等のうち返還しないものの額の帰属の時期)
一方、支払ったオーナー側では、権利金はP社と異なり最終的には全額経費とされますが、繰延資産として5年間均等償却で経費に計上することが求められます。(所得税法基本通達50?3繰延資産の償却期間)
フランチャイズ店の例として、当初は売上のうち月額数百万円までは高いパーセント、それ以上は低いパーセントでロイヤリティを計算する仕組みをとると、オーナーが頑張るという事例もありますので参考にしてください。
オーナーは売上から本部からの仕入とロイヤリティを支払った後、アルバイトの人件費を払うことになります。
売上がある程度大きくなると、オーナーもロイヤリティが比例して高いと思うようになります。そこで本部がオーナーに店舗を購入する話を持ちかけます。店舗を購入するとロイヤリティが毎月定額になること、売上金は翌日全額本部の口座に預け入れが義務付けられていたものが、本部からの請求を待って、期限通り支払えば後の管理は自由であることなど、いろいろと恩典があります。話がまとまれば、「営業権」の名目で売買契約を交わします。
最後に、かつてオーナーの側の確定申告について税務調査を受けたときのお話をしましょう。
税務調査ではオーナーの計上した売上や本部からの仕入の反面調査を必ず実施しますので、本部としてもデーター管理を心がけてください。
オーナーは「本部との取引だから本部で確認してください」と調査官に答えますので、税務署としてもそれ以上オーナーのことは調べません 。
前述の「営業権」の購入の件では問題がありました。本部が契約書にこっそりと“店舗造作を売った”と目立たないように記載して、このことをオーナーに一言もいわないで契約させていたからです。なぜそのようなことをするのか、というと本部の側では「営業権」の取得価額がないので、店を建てた当時の造作の帳簿価額を経費にしないとストレートに売買代金が課税所得になることと、店舗造作は償却資産税の課税対象になる以上、売却したことにすれば節税になるということだと思われます。
しかし、この税務調査では、造作が欲しくてオーナーが借金をして「営業権」を購入したわけではないことがはっきりしていましたので、幸いにも造作とされませんでした。しかし、税務署としては、造作の方の償却期間が営業権の償却期間である5年間より長いので、造作と断定して償却超過で修正申告にしたかったかも知れません。
造作の所有権を手にしたら、店舗のフランチャイズ契約が終了した後、“自分のものは自分で片付けろ”と契約をたてにして、本部から高額の建物取り壊し費用を請求されるので、「知らない間に不利な契約を交わされた」とオーナーは税務調査後本部に対して不信感をあらわにしていました。
P社とG社員がフランチャイズ契約を交わすことがある場合には、このようなことがないよう“共に発展する”を目標としてもらいたいものです。G社員の独立が成功すれば、後進への道が開かれます。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
SRネットは、全国展開に向けて活動中です。


SRアップ21東京 会長 朝比奈 広志  /  本文執筆者 弁護士 松崎 龍一、社会保険労務士 藤見 義彦、税理士 浅田 徳英



PAGETOP