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第66回 (平成19年8月号)

毎週出張で日曜日にどこにも行けない!
休みが欲しけりゃ有給休暇を使え!

SRアップ21鹿児島(会長:保崎 賢)

相談内容

「A君は大変だなぁ…このところ毎週○○へ出張だね。しかも、日曜日に出発しているんだろう?」と同僚がA社員に声をかけてきました。「3週連続だよ、月曜日は7時に展示会場に行かなければならないので、日曜日に出るしかないんだよ…手当がでるわけではないし、家族サービスができず、家内はブーブー言っているよ、しかも、部長と一緒だから列車内でも楽できないしなぁ…」
H社の規則では、「出張のため前日に出発しても、その日は労働日とみなさない」と定義があります。また、その日は出張日当支払いの対象にもなっていません。A君と同僚が話をしているところに、他の営業社員たちが集まってきました。「うちの会社は、営業は“何でもあり”だから仕方ないよ」「いや、日曜日をつぶされるのだから、代休があってしかるべきだよ」「上司に同行する場合は、労働時間といっしょだよ」等々、不平不満会議となってしまいました。
そこへ、S営業部長が通りかかり、「一般社員よりも給料が高いし、歩合給もあるじゃないか、昔に比べると楽なもんだよ…」と口をはさんできました。営業社員たちは「S部長に相談してもムダだな」と口々に言いながら仕事に戻りました。
次の日の幹部会議でS営業部長が昨日の件を報告しました。最初は静かに話を聞いていた社長でしたが、「お前の指導がなっていないのだ!会社のルールに文句がある者は出張させなければよい!休みが欲しけりゃ有給休暇を使えばいいのだ!」とついに爆発してしまいました。「営業に残業や休日勤務手当を支払って売り上げが倍増するなら、いくらでも払うよ、接待も自分が飲まず食わずで接待するのであれば別だか、自分も飲み食いしているだろう!」

相談事業所 H社の概要

創業
昭和54年

社員数
61名(パートタイマー 9名)

業種
機械器具卸売業

経営者像

各種加工機械や工具を販売するH社の社長は59歳、約40名の営業社員を有し、定期的に商品の展示会を行っています。自身も営業出身ということから、労務管理に多少の甘さがあるようです。


トラブル発生の背景

S営業部長は、社員たちの本音をもう少し汲み取り、そして自分でも改善策を考えて幹部会議の場で報告すべきでした。管理職が部下の不平不満をそのまま報告したことが社長の逆鱗に触れたようです。
出張中の業務はすべて“みなし労働”で問題ないのか、移動時間は“休憩”という解釈でいいのか、日曜日出発の代休は必要ないのか、H社営業社員の実態を考えると、賃金諸手当を見直す必要があるのかもしれません。

経営者の反応

幹部会議の翌日、S部長が営業社員たちに、出張とルールについて説明を行いましたが、完全に逆効果でした。「部長のお立場はわかりますが、自分たちも今後入社してくる者のためにも、“時間”の考え方をはっきりした方がよろしいと思うのです」とある営業社員が発言すると、全員からの拍手喝采です。数日後2名の営業社員が“嘆願書”をもって総務部長に提出しました。「仕事はきちんと行いますので、お考えいただけないでしょうか。出張中の経費についても、かなり自腹をきることがあります」
総務部長は一通り話を聞くと「社長にどのように話すのか、が問題だな…」とS営業部長を睨みながら頭を抱えました。
「ここは、専門家の力を借りましょうよ、我々だけだと代案も何も思いつきませんよ」とS営業部長が言うと、総務部長も同感に思ったようでした。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:上野 英城)

本件において、賃金とは何か、労働時間とは何か、を前提として、出張による移動時間が労働時間に当たるのか、という点が問題となります。
まず、賃金について、労働基準法第11条は、「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与、その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と規定しています。賃金が「労働の対償である」とは、労働者が実際に働いたこと、すなわち労働者の固有の時間を使用者が具体的、現実的に支配したことに対する代価を意味しています。
次に、労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間すなわち労働者が使用者に拘束されている時間をいいます。
そして、法定の労働時間を超えた労働時間については、使用者は労働者に対して、時間外労働として割増賃金を支払わなければなりません(同法第37条)。
したがって、出張による移動時間が労働時間に当たるか否かは、使用者や労働者にとって、賃金や割増賃金の支払い義務の有無という重大な利害関係を有する問題となります。ここで、労働時間についての判例をご紹介しましょう。
最高裁判例(平成12年3月9日判決)は、いわゆる三菱重工長崎造船所事件において、「労働基準法の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下におかれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」と判示しています。
では、本件の「月曜日に開催される商品展示会場への出張のために日曜日に出発する場合の移動時間」は、労働時間に当たるのでしょうか。判断基準は、その移動時間につき、労働者が使用者の指揮命令下に置かれているか否か、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否か、により使用者の指揮命令からどの程度開放されているか、言いかえれば、その移動時間につき、どの程度、職務上の拘束性があるかということについて検証します。
たとえば、電車や自動車、あるいは航空機や船舶などで、単に目的地まで移動すればよく、使用者から移動中につき別段の指示・命令がないという場合は、労働(使用者の指揮命令)から解放され行動の自由性がありますから、その移動時間を労基法上の労働時間として取り扱う必要はないと思われます。
この点、出張先への移動時間を、出張先での「職務に当然付随する」ものとして労働時間であると判断する裁判例もあり(島根県教組事件・松江地裁昭46.4.10判決)、学説の中にも、「手待時間」に準じて取り扱うべきであるとの見解もあります。
しかし、多くの裁判例および通説的見解は、労働時間にはあたらないと解しています(東葉産業事件・東京地裁平元.11.20判決―日曜日を利用して出張先の神津島から帰ってきたという事案。横川電機事件・東京地裁平6.9.27判決―韓国出張に要した移動時間について。高栄建設事件・東京地裁平10.11.16判決―寮から工事現場までの往復の時間。阿由葉工務店事件・東京地裁平14.11.15判決―会社事務所と工事現場の往復時間)。
これに対し、出張のための移動中において、物品の監視・管理や商品あるいは現金、貴金属などの運搬など、使用者から特段の用務を命じられている場合は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間といえ、そこに労働からの解放、行動の自由性はありませんから、原則として労基法上の労働時間に該当するということになります。
このことにつき行政通達は、日曜日の出張は休日労働に該当するかとの問い合わせにつき、「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差支えない」としています(昭33.2.13基発90号(35条))。
本件の場合、移動時間が、使用者の指揮命令下に置かれている時間か否か、具体的に言えばどの程度職務上の拘束性や業務から開放され、行動の自由があるかを個別的・総合的に考慮して、労働時間か否かを判断することになります。
以上を前提に考えると、たとえ、部長に同行したとしても、出張時の移動時間は、労働時間に算入する必要はないと考えてよいでしょう。
しかし、実際には、“労働時間か否か”を判断することは困難な場合が多いでしょうから、事前に労働時間に算入する基準を設けておくべきだと思います。
具体的な取り決めについては、社会保険労務士、税理士のアドバイスを受けて決めるとよいでしょう。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:横山 誠二)

私ども社会保険労務士に相談されるケースは大きく2つに分類できます。
1つは、法令違反の事案です。労働法関係であれ社会保険法関係であれ、明らかに法に違反したケースです。法違反の事例は、関係各法令に則り、きちんと処理されるべきものと考えます。例えば、残業代未払いであればその是正をして即刻支払うことにより解決となります。もちろん、法令違反は、場合によっては行政処分の対象となりますので、関係行政から是正勧告や保険料追徴など強制処分が行われる場合もあります。
もう1つは、直接法令違反ではないけれども、社内機能若しくは人間関係がうまくいかず会社経営に悪い影響を及ぼしているケースであります。
今回のH社のご相談は、この後者のケースに該当します。
出張時における移動時間については、弁護士の説明の通り、労働時間とする説と通勤と同一視され、労働時間ではないとする説があります。
行政解釈では、通勤時間と同一視され労働時間ではない、との本省通達があります。ただし、貴重品などを保管している出張においては、巡回や監視など相当の注意を払うべく指示がなされている場合には、使用者の指揮監督が及んでおり、労働時間とみなされるとの見解です。(基発第461号、基発第90号)
さて、本件は労務管理上どのような問題を含んでいるのでしょうか。以下、問題点をまとめてみましょう。
1 Aさんは3週間連続出張している。
2 上司である部長と同行している。
3 移動日がいずれも日曜日で家族からもクレームが出ている。
4 社長・営業部長と、営業社員の出張に対する概念が乖離している。
5 出張に対して、日当など金銭的な補助がない。
6 出張に要する時間すべてをみなし労働時間と一括りしていいのか。
等々の問題がありそうです。

[問題点の分析]

■1について
営業社員を40人ほど擁している中でなぜAさんに集中したのでしょうか?担当地域がAさんのエリアだったとしても、あまりにも集中しているように思われます。他の営業社員と代わってもらうことはできなかったのでしょうか。
■2について
部長が同行しているとなれば、当然部下としては、それなりの気遣いや緊張を伴うものであろうと想像できます。例えば、弁当やお茶を買ったり、旅行かばんを持ったりすることは、義務としてではなく日常的に多くの部下がやっていると思われます。
■3について
1で述べたように、出張がAさんに集中しているため、家族団らんという安らぎが得られていない。ひところ「モーレツ社員」なる言葉がサラリーマンの鏡であるように言われましたが、現在の労務管理の理念やモラール向上の観点からすると仕事と家庭は両立して初めていい仕事ができるという考えが主流でありましょう。
■4について
社長や営業部長は、自分の若い時代の体験から、「昔はこんなものじゃなかった。」とか「会社の金で飲み食いしているから当然・・」との考えを示していますが、今日の労務管理からすればあまりにも古典的で、社員育成という観点から見れば決して得策とはいえないと思います。
■5について
多くの営業社員が漏らしているように、出張となれば当然に外食やお茶など幾分かの費用は避けられないものであり、しょっちゅう自腹となれば不平・不満が蓄積されることは想像に固くないと思われます。
■6について
みなし労働時間は、営業社員など事業場外で労働する社員に適用されるもので、労働時間の算定が困難な場合、実際の労働時間とは関係なく、労使協定により定められた所定時間労働したものとみなされる制度です。
H社では、みなし労働時間制がとられているようですので、使用者の特段の指示がなければ、みなし労働時間労働したものとして取り扱われることになります。

以上のように問題点を分析すると、H社に必要なことがだんだんと見えてきました。
まずは、社内のコミュニケーション活発化を図ることです。社員数61人という中小企業の場合、社長の経営理念や事業計画、情熱を直接社員に伝え、理解させることは非常に重要なことと考えます。経営目標を共有して営業に携わることは、それだけで業績アップに繋がるものです。社員と話し合うことで、お互いを理解し合えば、ただで飲み食いして・・などの考えはなくなるだろうと思います。また、そのような話合いの場で、部下の悩みなども聞いて対処すれば出張の頻度が一人に偏ることもなくなるでしょうし、部長と同行しても人間関係ができているはずですから、拒否反応はなくなるだろうと思われます。
また、部長は、展示場の諸準備まで関わる必要はないでしょうから、担当営業社員とは別行動の工夫も有効ではないかと思います。
さらに、出張に関する費用について、これをきちんと制度化することです。出張に際して、多くの企業では、出張旅費規程を設けています。交通費は、実費としている企業が大半です。その規程の中に宿泊費・日当について制度化しておくことが重要です。費用についての仮払い制についても考慮されるとよろしいでしょう。

■例
(出張旅費)
第○条 社命により出張する場合には、つぎの通り出張旅費を支給する。

単位:円(1日あたり)
役 職 交通費 宿泊費 日 当
部長職 実 費 18,000 (25,000) 4,000
課長職 実 費 15,000 (22,000) 3,500
係長職 実 費 12,000 (18,000) 3,000
一般職 実 費 10,000 (15,000) 2,500

1 交通費については、航空機、電車、船舶などの種別はその目的距離、緊急度等により、営業部長が個別に決定する。
2 宿泊費の(  )は東京都・大阪府・名古屋・札幌・福岡の6大都市への出張の場合に適用する。

 

(出張費の仮払い)
第△条 出張の際には、日程、旅程を考慮し必要な経費を仮払いすることができる。
2 仮払いは、帰社後1週間以内に、精算報告書に領収書を添えて精算しなければならない。

税理士からのアドバイス(執筆:池田 剛)

従業員の出張に際し、出張手当等の名目で金銭支給を行うことが慣習化しています。
これらについては「通常必要と認められる金額」であれば、出張者に対して、所得税等の課税はなく、また支払った法人においても、法人税において損金として認められます。
この場合の「通常必要と認められる金額」かどうかは、下記の事項を勘案して判定することとされています。
(1)その支給額が、その支給をする企業の役員および使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている「基準」によって計算されたものであるかどうか
(「基準」が、関係者が納得いくような明確なものになっていないと、本件のようなことが発生する一因になりかねません。)
(2)その支給額が、その支給をする企業と同業種・同規模の他の企業が一般的に支給している金額に照らし、相当であると認められるものであるかどうか
(同業他社のそれと比して、異常に多額になっていると、当局より給与ではないかとの指摘がなされる恐れがあり、また少額すぎると、社員のモチベーションに影響しかねない)
これらの要件を満たすために、「出張旅費規程」を作成し、日当の額もその中で定めておくようにしておきます。
なお、税法では、日当等の適正な額について、具体的な金額までは規定されておりません。なぜなら、企業毎に出張の状況等がバラバラであり、統一した基準が規定しづらい現実があるからであろうと思われます。
あくまでも、前記の(1)(2)に照らし合わせて、それぞれの企業の実情に合わせて、算定の根拠を明確にしながら決めていくこととなります。

日当・出張旅費等の税務上のポイント
(1)カラ出張は無いか
出張申請書や出張報告書などを備え付け、出張目的や内容を明確にするように心がけることが大事です。例えば、旅費交通費が前年と比してかなり増加しているものの、セールスマンの増員もない、売上げも低迷している、遠方の取引先も増えたわけでもないなどとなると、「カラ出張ではないか?」と疑われる場合があります。その際に、出張報告書の無い旅費や出張者本人の直筆でない出張日報などがチェックされ、結果、同時に別の2ヶ所に出席していることになってしまっていることなどが判明し、相当額を給与や接待交際費として課税される場合があります。
(2)交際費分やプライベート分が混在していないか
得意先の冠婚葬祭出席のための旅費等は、全額が接待交際費に該当します。なおこの場合、取引先や支店での打ち合わせや市場視察の合間に冠婚葬祭にも出席したのであれば、旅費交通費に該当すると思われます。出張の効率を高める工夫が大事です。
交際費分や個人の観光部分が混在する場合は、業務分との按分をしっかりとしておく必要があります。按分がされていない部分については、交際費や給与として課税される場合があります。
(3)旅費等の仮払清算は遅れていないか
清算が遅かったり、清算がルーズな「仮払金や仮受金の残高の多い会社」は、税務当局も関心を持ちがちです。税務当局と見解の相違を生じかねない要素は少しでも減らす工夫を日ごろからしておくことが大事です。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRアップ21鹿児島 会長 保崎 賢  /  本文執筆者 弁護士 上野 英城、社会保険労務士 横山 誠二、税理士 池田 剛



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