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第61回 (平成19年3月号)

子会社に労働組合ができた!
偽装請負からの脱却を目指していた最中なのに…!!

SRアップ21福井(会長:小玉隆一)

相談内容

K社には、100%出資の子会社であるA社(社員21名)とB社(社員9名)があります。いずれの子会社もK社の専属下請を行い、他社との取引は一切ありません。「最近、偽装請負だなんだとうるさくなってきたが、A社とB社も考えてみれば同じようなものだな…。社長や役員も本社から出向させているし、人件費相当分でA・B社に工賃を支払っているわけだから、問題になるかなぁ…」とT社長が専務に相談しています。「いまのところ社員たちからクレームがあるわけではありませんが、合理化という点と偽装請負からの脱却を目指して、2社合併のシミュレーションでもやってみますか」と専務が返します。「そうだな、その結果によって判断するか」ということで、専務がシミュレーションの指揮をとることになりました。それからは専務の指示により、本社の各部門がさまざまな角度から現在と合併後の対比表の作成に取りかかりました。2週間後、「専務大変です。B社に労働組合が結成されました。近々に結成の挨拶と団交の申し込みをすると言っていますが…」と本社の総務部員が駆け込んできました。「なにぃ、労働組合だと…、情報がもれたのかな、それともマスコミ報道の影響で本社への直接雇用をたくらんでいるのか…、いずれにしてもシミュレーションどころではないな、すぐに社長に報告しよう」と本社の上層部は大騒ぎになりました。「いっそのことB社は閉鎖してしまうか」「いや、出向者をすべて引き上げて、プロパーだけで役員を構成するようにしたらどうだろうか」などと乱暴な意見ばかりが飛び出すありさまです。痺れを切らしたT社長が「ことが大きくなっては困る。何とか穏便にすませたい、組合の影響がA社に及ぶのを阻止しなければならないしな…」

相談事業所 K社の概要

創業
昭和42年

社員数
58名(パートタイマー 18名)

業種
建設資材製造業

経営者像

各種パイプや空調機器の部品を製造するK社の社長は66歳、バブル崩壊後も堅実に業績を維持し、子会社2社を保有しています。少し心配性なところがあるT社長ですが、地元では顔役的な存在となっています。


トラブル発生の背景

K社の子会社A・B社の社員の賃金や賞与、退職金は、本社社員の80%くらいで設定されていました。子会社の仕事の内容は、本社製造工程の一部分をすべて請け負うという内容のものでした。
“労働組合”とは何か、基本的な知識がまるでないK社の幹部は、労働組合を単に敵対関係としか捉えていないようです。今後の交渉に不安が残ります。

経営者の反応

団交の要求を要約すると、“賃金、賞与、退職金の制度を本社と同レベルにしてほしい”ということでした。いわば同一労働同一賃金を要求されたのです。「身の程をしらない要求だな、しかし…子会社については評価もきちんとしていないし、本社の社員と何が違うのか、といわれると返答に困るな…」と社長。「いや、会社が違うのですから当然ですよ」と専務。
これでは埒があかないと判断した総務部長が「ここは専門家にアドバイスをお願いしたらいかがでしょうか…」と思い切って提案すると、一同意義がありませんでした。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:金井 亨 )

本件に関し、同一労働同一賃金の及ぶ範囲、偽装請負の問題、K社は要求をのまざるを得ないのか等のポイントをご説明しましょう。

【同一価値労働同一賃金の原則とは】
この原則については、次のように説明されています。
「欧州諸国では、必要とされる技能の種類・レベルが同じである職務(job)に雇われていれば、パートタイム労働者は、フルタイム労働者と同じ時間給を支払われ、時間に比例して賃金が安くなるというに過ぎない。これは、各職種について技能の種類・レベルに応じた横断的な賃金表が産業別労働協約において設定されるなどして、労働市場において、賃金が基本的に職務(job)、ないしはそれに必要な技能の種類とレベル、によって決められることを基盤としている。そこで、フランス、ドイツ、オランダ等では、パートタイム労働者の賃金について時間比例での平等取扱い(同一職務同一賃金)の原則が法定されている。そして、これらの法制をモデルとして作成されたILOの新175号条約でも、同原則が基本原則として取り入れられている。」(菅野和夫著、新雇用社会の法初版274頁)

【我が国における同一価値労働同一賃金の原則に関する議論】
同一価値労働同一賃金の原則は、専ら正社員とパートタイム労働者間の賃金格差の問題において主張されているようです。判例では、「製造現場において殆どフルタイム(1日の所定労働時間が正社員より15分短いだけ)で基幹産業に従事しながら、同一業務に従事する正社員に比し、月例賃金、賞与、退職金において格段に低い処遇が行われてきた女性「臨時社員」について、賃金額が同種労働に従事する正社員であって同じ勤続年数の者の8割以下となる場合には、同一価値労働同一賃金の原則の根底にある均等待遇の理念に反し、公序良俗違反(民法90条)になり、月例賃金、賞与、退職金のいずれについても8割までの差額を損害賠償請求できる」と判示したものがあります(丸子警報器事件、長野地上田支判平8・3・15、新雇用社会の法初版274頁)。
しかし、少なくとも現行法の解釈としては、正社員とパートタイム労働者の賃金格差は、最低賃金額を満たし、差別禁止規定に抵触しない限りは、労働市場の仕組みに委ねられているとして、上記判旨に反対する意見もあります(新雇用社会の法初版275頁)。

さて、以上を踏まえると本件では何が問題となるのでしょうか。
B社の労働組合が本社のK社に団体交渉を求め要求したことは、上述の同一価値労働同一賃金の原則の実現です。また、「偽装請負」という点については、実質的には雇用契約であるにも拘らず、形式的に請負契約とすることで、賃金を切り下げることが許されるのか、という問題もありそうです。
労働組合法第7条2号は、使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことは、不当労働行為になると定めています。通常、労組法第7条の使用者と労働契約上の使用者とは一致しますが、例外的に、親会社が子会社の業務運営を支配し、子会社従業員の労働条件も実際上親会社が決定している場合などでは、その親会社は労組法第7条の使用者性を有すると判断されています。
本件では、B社がK社の100%子会社であり、構内子会社として本社製造工程の一部分を全て請け負っており他社との取引は一切ありません。B社の経営陣はK社から出向し、K社がB社に支払う請負代金はB社従業員の人件費相当分というのですから、K社はB社の業務運営を支配し、その従業員の労働条件も実際上決定しているといえ、K社はB社の労働組合と団体交渉をしなければならないと考えます。
一方、一般論として、会社が違えば賃金等も違って当然だというK社専務の発想は、少なくとも今の日本の法制のもとでは妥当すると思います。何故なら、日本には欧州諸国のように、労働市場において、賃金が基本的に職務(job)、ないし、それに必要な技能の種類とレベル、によって決められるという基盤がないからです。
もっとも、同一価値労働同一賃金の原則の適用があるとしても、本社社員の80%ほどの賃金等の設定が不合理な差別というべきかどうかも問題です。パートタイム労働者に同一価値労働同一賃金の原則を適用した上記判例でも、正社員と全く同額とまでは言わずに8割を下回ったら公序良俗に反するとしています。逆に全く同一にしなければならないとしたら、K社とB社の法人格の違いを全く無視することになります。
結論としてはK社がB社労働組合の要求を呑む必要はないと考えます。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:小玉隆一)

最近は、労働組合の組織率が20%を切り、その活動の停滞化が顕著ですが、一方では、個別労使紛争の増大と小規模企業での労働組合の組織化および一人別労働組合への加入が増加の傾向にあり、K社にかかわらず経営者においては労働組合を敵対視し、結成自体をやっかいな問題と捉えている方が多いようです。
まず、労働組合とは何か、労働組合が結成されて使用者がやってはならない行為=不当労働行為とは何かという基本的なことをご説明します。

【労働組合とは】
労働組合とは、労働者が使用者に対して対等の立場を確保するために、憲法第28条に定められた団結権の行使として結成された団体のことです。
また、労働組合法では「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又は連合体を労働組合という」(第2条)と定義されています。
このように、労働組合は使用者と対等の立場が法律上確保されており、“労働条件その他労働者の地位向上のために使用者と交渉する権利”が与えられている、ということを経営者は認識しておかなければなりません。

【不当労働行為とは】
不当労働行為とは、使用者による労働組合や労働者に対する団結権などの侵害行為をいい、労働組合法では団結権などに対する使用者の一連の侵害行為を類型化して禁止しています。(第7条)また、不当労働行為に対する労働委員会による救済措置(第7条4号)についても規定していますが、本件に関し、特に使用者が行いやすい禁止されている行為を次に挙げますので今後の対応には十分留意してください。

●差別的待遇(労組法第7条1号)
例えば、組合員であることを理由に給与に差をつける、組合員であることを理由に不当な人事異動を行う、組合員であることを理由に懲戒処分の差別を行うことなどが該当します。
●条件付き雇用(労組法第7条1号)
例えば、「労働組合に入らない方が良い」などと指導・示唆すること、新人研修などで労働組合の批判をすること、労働組合加入後に「なぜ組合に加入したのか」などと説明を求める行為などが該当します。
●団体交渉拒否(労組法第7条2号)
例えば、交渉日時を延期させてなかなか応じない、要求書の受け取りを拒否する、交渉での確認事項を守らない、話をはぐらかせたり・誠実な応対をしない、交渉権限や決定権限のない者のみで形だけの交渉を行う、具体的な資料や根拠を示さず要求をやみくもに拒否し続けるなどが該当します。
●支配介入(労組法第7条3号)
例えば、労働組合に入ることに待ったを掛けたりすること、労働組合からの脱退を促すこと、労働組合に対して中小誹謗を行うこと、労働組合役員選挙に影響を与えること、労働組合の加入勧奨活動を妨害すること、組合員の買収行為、組合専従者への資金援助などが該当します。

【労働組合ができたときの会社側の対応】
K社はB社に労働組合が結成されて慌てているようですが、前述の点を踏まえて今後の組合対応の流れをアドバイスします。

1)中心人物は誰?
労働組合結成時の中心人物によって会社の対応は変わる場合がありますので、どのような人物かを分析しておく必要があります。例えば、思想・支持政党・社内外の交友関係・性格・前職での組合運動などですが、人権保護の点からも細心の注意を払って情報収集に当たらなければなりません。

2)労働組合を結成した理由は何?
「ワンマンな経営者に対抗するため」「親会社と比べて低い労働条件の改善を求めるため」「経営に対するチェック機能のため」「他の労働団体などから組合結成を促されて」などなど、労働組合を結成した理由はさまざまです。人事に関する決定、親会社との比較による賃金や賞与・退職金の水準、業務運営の指示、待遇処遇の差など労働者とのコミュニケーションが十分にとれていたのか、また納得のうえ実施されていたのかどうか、再度点検して、その結成動機を把握する必要があります。その動機により対応は変わってくるのです。
特に労働争議が頻発している労働団体の指導を受けて組合を結成したのであれば、より慎重な対応が必要になってきます。

3)労働組合を会社発展に利用する?
まずは、労働組合結成の動機を分析し、その動機となった事項の改善・解消に努めることが結果的には解決の近道となります。労働者との対話を深め、その信頼関係を強化すること、経営や管理者に対するチェック機能が果たせるようにすること、会社の経済的・社会的な問題をクリアにしていくこと、などを目的として労働組合との関係構築ができれば、望ましいと思います。
本件では、“賃金、賞与、退職金の制度を本社と同レベルにしてほしい”という要求ですが、慌てず騒がず冷静に本社を含めてグループ会社全体の労働条件等を整理して、K社とB社との違いを明確に説明できるように準備して団交に臨み、それから今後の対応を練ることが必要です。

4)グループ会社における労務管理
企業は、より大きな付加価値を生産することにより永続的に発展することが目的ですが、直面するさまざまな要求や期待にも応え、社会に貢献できる理念・倫理をもって日々活動しなければなりません。この企業理念・倫理は、親会社も子会社も同じで、全労働者が共有し、同じ方向を向いていなければ、達成できるものではありません。とすれば、人事・賃金等における労務管理も一体化して画一的に運用・処理される体制が必要であり、親子の関係も含めて体系的にシステムを構築し、本社主導で実施することが肝要です。

本件のようにK社とA社・B社の関係が実質的に一体化している(構内下請け)製造業では、形式的に会社を分けて労働条件等に差を設けている、とくに賃金に関して人件費抑制のために差別化しているようなケースが多く見受けられます。
請負かどうか、という法律的な問題もあるため、今後は合併を視野に入れた、K社・A社・B社の人事制度・労働条件の整備に本格的に取り組む必要があるものと考えます。

税理士からのアドバイス(執筆:清水 千佐)

請負に関する法律的な問題は、弁護士・社会保険労務士に任せ、「偽装請負などとみられては・・・」という点について、税務の観点から言及しておきましょう。税務調査において、K社とA社・B社との取引が実質的には雇用関係があると認定された場合、次のような問題が発生します。まず、消費税計算にあたりK社は請負契約であるという認識の下、A社・B社への人件費相当額の工賃を課税仕入に係る税額控除の対象として処理していたと思われます。しかし、現況の取引が雇用契約であると認定をされれば、出向負担金は課税仕入にかかる税額控除に該当しないこととなり、過去の申告消費税額が過少であったことになります。また、事業税の計算においても、K社が資本金1億円を超え、外形標準課税の対象となる法人であれば、出向負担金は外形標準課税の課税標準額を大きくすることになりますので、修正申告が必要となります。
以上のことから考えても、K社にとって現況の取引を見直すか、合併を模索することは賢明な判断といえます。そこで、合併のシミュレーションを行う場合の留意点を合併時と合併後の視点から考えていきましょう。

【合併時の会社法上の留意点】
会社法に規定する合併の形態には「吸収合併」と「新設合併」があります。吸収合併とは、存続する会社が消滅する会社の権利義務をすべて承継するものをいいます。また新設合併とは、合併により新たに会社を設立し、その会社に消滅会社の権利義務を承継するというものです。本件の場合、K社が合併会社として存続会社となり、被合併会社であるA社とB社は消滅することになりますから、吸収合併に該当します。
本件において、A社、B社の財務状況は明らかになっていませんが、シミュレーションにあたって問題がないかどうか考えてみましょう。旧商法において実務上では、債務超過会社を消滅会社とする合併は認められませんでした。しかし平成18年5月施行の会社法においては合併差損が生じる吸収合併が認められることとなり、A社・B社が債務超過の状況にあっても吸収合併が可能となりました。ただし会社法は、存続会社の株主の保護の観点から、存続会社における吸収合併契約を承認する株主総会において、その旨の説明をしなければならないと規定していますので、この点については留意しなくてはなりません(会社法795条2項)。
次に合併をシミュレーションする際、法人税法上ポイントとなるのが、税制適格合併に該当するか否かということです。
税制適格合併とは、法人税第2条12項8号に規定する要件を満たす合併のことをいいます。本件の合併は、被合併会社であるA社とB社が合併会社であるK社の100%出資の完全子会社ですから、事業関連性要件など他の適格要件を検討する余地はなく、税制適格合併に該当することとなります。
そのため、合併によりK社がA社・B社から引継ぐ資産等の価額は、帳簿価額によるものとし、譲渡損益の発生はないものとして取り扱われます。法人税法においては、法人が有する資産を移転した場合には時価による譲渡があったものとして譲渡損益を認識するのが原則です。仮に、この合併が非適格合併であった場合、時価による資産等の譲渡があったものとされ、譲渡損益は益金の額又は損金の額として計上されることとなります。また、本件のように適格合併に該当する場合、A社・B社の貸倒引当金など各種引当金はK社へ引継がれます。さらにA社・B社が青色欠損金を有していれば、一定の条件を満たすことで、K社は青色欠損金も引継ぐことができます。仮に、非適格合併である場合は、引当金、青色欠損金ともに合併会社は引継ぐことはできません。
次に、K社がA社、B社から資産等を引継ぐにあたり課税上留意すべき点を挙げておきます。まず、消費税法においては合併による資産の移転は課税対象外となります。そのため本件においてK社からA社、B社への資産の移転について消費税の課税は発生しません。また、地方税法においては、K社が合併により引継ぐ不動産にかかる不動産取得税は非課税とされ、自動車取得税もこれと同様の取扱いとなります。

では、合併後のK社に関するシミュレーションでの留意点を述べておきます。
K社は合併前においては人件費相当分としてA社、B社に外注費を支払っていたため消費税法上は課税取引として取扱い、課税仕入に係る税額控除の対象として処理していたと思われます。ところが、合併後はA社、B社から引継いだ社員に対して直接給与を支払うこととなります。消費税法上、給与は不課税取引となりますので、課税仕入に係る税額控除の対象とならず、必然的にK社の消費税額の負担は増加します。また、K社の資本金が1億円を超えている場合には、事業税に関して外形標準課税が適用されます。合併によりK社の人件費が大きくなると、外形標準課税の課税標準である報酬額が増大することとなりますので、K社の事業税額の負担が増加します。
以上、合併における留意点を挙げてきた中で、合併後の税負担の増加はデメリットとして考えられるかもしれません。しかし、このことは、現況の請負契約が雇用契約であると認定された場合に同様の税負担が発生するわけですから、決して消極的に考える点ではないと思います。また、(3)で挙げたように本件は税制適格合併するため、合併時においての税務上の措置も受けられるというメリットがあります。そして、合併により間接部門を集約することで、経営の効率化やスリム化を図ることができます。合併は、K社にとって現況の問題点をクリアにするだけでなく、K社発展の観点からも効果が期待できるものと考えます。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRアップ21福井 会長 小玉隆一  /  本文執筆者 弁護士 金井 亨 、社会保険労務士 小玉隆一、税理士 清水 千佐



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