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第41回 (平成17年7月号)

「また出張扱いですか…」
残業手当不払い?に対する社員の不満

SRアップ21千葉(会長:高柳 克之)

相談内容

「各店舗に社員は1名、後はアルバイトでシフトを組めば人件費がかなり節約できる」というのが、G社長の持論でした。実際に、前社長と交代してからは業績もよく、人件費比率も抑えられています。現在社員は8名で、ほとんどの者がアルバイトからの登用です。
「出張扱いにすると、移動時間は労働時間にならないし、前日に行かせてもその日は労働時間とならない」断片的な知識から、G社長は「出張」を多用しています。「明日は、○○店のマネージャーが休みだから、U社員が出張してくれ!今日の業務が終わったら○○店に移動して、休憩室で寝たほうが明日の始業に絶対間に合うからな」といった具合に指示を出します。
A社の規定では、出張の定義は特になく、日当なしで、前日に出発した場合のみ3000円の出張手当がつきます。宿泊施設はスタンド内の休憩室です。もっとも社員によっては、次の日の朝早く出発する者もいますが、万が一、遅刻したら大変なお叱りを受けるので、かなり緊張して眠れないという者がいるという話もありました。
「出張と言ったって、たかが50キロの距離しかないところで、前の日から泊まれ、はないよなぁ。3000円では合わないよ」「へたすると、行った日に仕事しなきゃいけないときもあるしな…」「当日出発すると普段より2時間以上早起きしなきゃならないし、それで何の手当もないのはおかしいよな…」ある日、本社にいた社員たちがひそひそと話し合っていました。

相談事業所 A社の概要

創業
昭和63年

社員数
8名(アルバイト・パート 65名)

業種
石油製品小売業

経営者像

県内に5箇所のガソリンスタンドを経営するG社長は53歳、父親の後を継いで5年、まだまだ働き盛りです。昨今の不況に負けないためのサービス強化とアルバイトの有効活用で、業績は好調です。


トラブル発生の背景

労働時間が長時間化しやすい業態にあって、G社長は社員たちの気持ちを理解もせず、単に人件費削減のために「出張」を多用していました。社員たちには「役職手当」が月30,000円?50,000円ついており、管理監督者だから、という理由で残業手当の支払もありません。
場合によっては、残業を多く行なうフリーターの方が、社員よりも高額な賃金を手にすることがあったようです。

経営者の反応

「お前ら、文句ばかり言っていないで、もっと経営的な考えで仕事をしろよ」社員たちの不平不満が小耳に入り、G社長は幹部会議を開催しました。「社長、せめて時間外手当をつけてくださいよ。いくら働いても、出張しても、毎月給料が同じだと、やる気なくなりますよ」とある社員が発言しました。「お前たちに残業手当を支払ったら、会社の売上が上がるのか?そうじゃないだろう?どうしたら効率的に仕事ができるのか考えて、幹部なんだから実行しろといっているのだ!」とG社長。
社員たちに管理者としての自覚がないので、話は平行線です。そのうち一人二人と席を立っていきました。あわてたG社長は「まぁ待て、ここは専門家に相談するから、もう一度話し合おう」と言うことが精一杯でした。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:守川 幸男)

G社長の手法は、“出張とは何か”朝早くほかのガソリンスタンドに移動する場合には一見ただの通勤のように見えるが、これも出張と言えるのか、必要もないのに職場に宿泊させることをどう見るのか、というむずかしい問題を提供してくれました。要するに、これらの時間が使用者の指揮命令下にある労働時間として、賃金や残業手当(時間外割増賃金)の支払い対象になるのかということです。
あわせて、本件の社員は役職手当が3?5万円ついていても、フリーターより賃金が低くなることもあるのに、管理監督者と言えるのか、という問題があります。
以下、適宜場合分けをして解説しましょう。

●社員たちは管理監督者なのか?
A社には、県内5箇所にガソリンスタンドがあり、社員が8名、アルバイト・パートが65名とのことです。8名の社員の業務内容や、そもそも役職手当の額の差が何に由来するのかよくわかりませんが、管理監督者とは何かを明らかにすれば、おそらくこれらの8名が管理監督者に該当することはないと思われます。
 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいいます。本件で8名の社員にそのような権限と責任があるとは思えません。また、出・退社等についての裁量があり、かつその地位にふさわしい処遇がされていることも必要です。ですから、たとえ管理職と呼ばれたり役職手当が支給されていても、それだけで管理監督者ということにはなりません。したがって、社員に役職手当を支給するのは自由ですが、これとは別に、フリーターと同様に残業手当を支払う義務が生じます。

● 他のガソリンスタンドへの移動時間等は労働時間か?
A社でも、労働時間は何時から何時までの何時間と決まっているはずです。これを超えたら残業手当(25%増し以上)の支払い義務が生じます。そもそも使用者には実労働時間の把握義務があり、その例外としては、先ほどの管理監督者の場合のほか、事業場外労働や裁量労働(あわせて「みなし労働時間制」と言います)が法律で定められています。
さて、本件での移動時間が事業場外労働と言えるのでしょうか。労働時間を算定し難いとして、事業場外労働のみなし時間制(労基法38条の2)が適用されると、所定労働時間労働したとみなされます。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要な場合においては、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされますが、労使協定締結後これを労基署に届ける必要があります。この事業場外労働の典型は新聞記者やセールスマンですが、トラック運転手などは、事業場外で働いていても労働時間の把握が可能ですから、これには該当しません。恒常的なものだけでなく、臨時的なもの(出張等)にも適用されると解されています。

● 出張や移動時間は労働時間か?
  前述のとおり、法律の規定はけっこうややこしいのですが、それでは出張とは何か、本件のようなケースが出張にあたるのか、という問題を考えてみましょう。
 一般的に、仕事で職場を離れて他の土地に出かけること、を出張と言いますが、法律上の定義があるわけではありません。本件がそもそも出張なのか、それとも、前日から宿泊する場合は出張だが、朝2時間も早起きして出発する場合は出勤なのか、と言うむずかしい問題が生じてきます。後者の場合を単なる出勤と見るなら、これは労働時間と言えませんが、それでよいのでしょうか。むしろ、他の事業所の業務の応援のための移動時間、という表現の方が実態に合っているかもしれません。
実は、出張に限らず、移動時間が労働時間となるか、については、そもそも労基法などに特段の規定はなく、省令もない困難な問題なのです。
出張の際の移動時間については、これを労働時間としない、といういくつかの判例があります(韓国出張のケース:横河電機事件判決、日曜日を利用して出張先の神津島から帰ってきたケース:東葉産業事件…いずれも休日労働を否定した判決)。
旧労働省も、出張の行程は、特段の事由がない限り労働時間に含まれないものとしています(昭和23年3月17日基発461号、昭和33年基発90号)。もっとも、これらの判例には批判もあり、休日に移動せざるを得ない出張を特に命じられた場合(修学旅行の同行)は、当該職場に当然付随する職務として休日労働になるとした島根県教組事件判決もあります。
また、移動時間については労働基準法研究会第二部門中間報告(1984年8月28日)は、移動時間について、作業場所が通勤距離内にある場合は労働時間として取り扱わないが、著しく超えた場所にある場合は、通勤時間を差し引いた残りの時間を労働時間として取り扱うという考え方に立って労働省令で定めるものとする、と提言しています(まだ省令は定められていないようです)。

● さて本件の場合は?
  社員たちの自宅と勤務場所と出張先の位置関係がよくわかりませんが、いつもより2時間も早く起きて出勤しないといけないというのであり、しかもこれはG社長の命令で強制されているのですから、前項の提言の趣旨から考えても、通常の通勤時間を超えた2時間分については労働時間と見て、早出残業代を支払う必要が生じることになりそうです。
また、前日から宿泊する場合も、少なくともこれに準じた扱いをすべきだと考えます。そうするとおそらく3000円の出張手当では、2時間分の残業代には足りないでしょう。さらに、宿泊中の時間は一応使用者の指揮命令下にない、と言えますが、本来宿泊を伴わない業務なのに宿泊を強制しており、それでよいのか疑問もあるように思います。

● G社長へのアドバイス
  管理監督者でもないのに残業代を支払わないのは違法です。役職手当を維持するか廃止するかは別として、残業代を支払うべきです。
また、社員を将棋の駒のように使うやり方は改めるべきです。各ガソリンスタンドごとに必要な人員配置をして、有給休暇を取っても他のガソリンスタンドからの応援を必要としないようにすべきです。
断片的な知識で、「移動時間は労働時間ではない」として、今のやり方をしていて、もし残業代の支払いを求める裁判を起こされたら、はたして本件でこの考え方が妥当するのか、そう簡単ではないと思います。
いずれにせよ、人件費削減ばかり考えずに、社員とよく話し合う必要があります。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:曽我 浩)

大手石油会社のコマーシャルでガソリンスタンド職員に「・・・笑顔!」と笑顔を強調するものがありました。ガソリンスタンドにとって店員・スタッフの笑顔ほどすばらしいサービスはありません。この会社もガソリンスタンドのスタッフの笑顔の大切さに気づいたのでしょう。確かに閉塞間に満たされた現代こそ笑顔は求められています。それも作ったものではない、腹の底から湧き上がる健康的な笑顔です。
私に自宅の近くに必要以上に車で去っていく客に頭を下げているガソリンスタンドがありました。今回の不況も影響したのでしょうまもなく倒産しました。
健康的な笑顔で迎えてくれるガソリンスタンドはあまりありません。文句のつけ様はないのですが、マニュアルどおりで味気ない挨拶が多いのです。いくら形式的に頭を下げてもお客は見抜きます。何気ない健康的な笑顔で迎えてくれるガソリンスタンドこそ顧客に支持され繁栄していきます。

A社のように、社長が幹部と思っている社員から「せめて時間外手当をつけてくださいよ。」などと言わせているようですと、店に健康的な笑顔など生まれるわけはありません。むしろ労働基準監督署に訴えでもされ、さらに遡って時間外手当を請求されたら今までの好業績もいっぺんに吹っ飛んでしまします。G社長が「労働基準法なんかを守っていたら会社はつぶれちゃう」などと思っていたら大変なことになります。
労働基準法を守ってこそ従業員に明るい笑顔が生まれます。マニュアル人間でない情感豊かな人間が育ちます。JR西日本のように、あの大惨事にボーリングや宴会をするような従業員は生まれないでしょう。常識的な発想が出来る従業員が生まれます。従業員の健康的な明るい笑顔こそサービス業発展の原動力です。
社長も社員を幹部と思うなら、また効率的な仕事を要求するなら、この際店長の仕事を改めて見直して欲しいと思います。まず店長の現在やっている仕事を徹底的に店長と話し合い書き出すことです。店長も「俺はこんなことしかしていなかったのか」ということが分かるはずです。そのうえで「本来店長のすべき仕事は何なのか」を考えてもらい、社長の重視している仕事を理解させ、社長のビジョンつまり社長はどんな会社を作りたいのかを理解してもらうようにすることが必要になってくるでしょう。
社長が「経営的な考えで仕事をしろ」といっても、社長が自信の経営理念・経営指針を明確にしていなければ、社員は自ら経営のことを考えるようにはならないと思います。
そのうえで社長は社員、特に店長には、最低次のことを要求して高いモチベーションを持って仕事をしてもらいましょう。そして業績が上がったら約束どおり報いることです。報い方も同じ報いるなら「チョット早くチョット多く」を心がけてください。

 

1、 店はつねに陳腐化していくことを認識させる。そのため常に時流、社長の方針を把握し店長方針を革新する。
2、 競合店の動きを常に把握する
競合店を意識したサ?ビスをすること。油以外の品揃えも研究すること。清潔な店であること。ある自動車部品販売店ではバッテリーを買う人の大半が、来店時は買うことを目的にしていなかったとのアンケート結果が出ています。顧客の潜在要求をいかにして引き出すか、です。
3、 アルバイトに信用されるように振舞うこと
そのためには、忙しい店にする。アルバイトを認める、褒める。アルバイトにこまめに声をかける。1日5分でいいのです。
4、 店長にABC分析の初歩を教え売上高、粗利、顧客数のABC分析を頭に入れさせる。売上高、原価,粗利高、経費、営業利益に関心を持たせる。
5、 お客様から視線をはずさないこと
そのためには、お客様の独り言、捨てせりふに注意を払うように全スタッフに徹底させる。
このようにしてガソリンスタンドの経営に興味を持たせ社長の夢を共有させることこそ労務管理の不満をなくす近道ではないでしょうか。

 

■社内請負制の可能性も検討する価値あり
社員に経営者意識を持たせるため、社内請負制が広がりつつあります。つまり雇用契約ではなく各店長とは請負契約にしてしまうというものです。当局の担当者によって見解がまちまちですが、ある新聞販売店で配達者との契約を請負契約にしてしまい消費税の税額控除の対称にしたところ、これを税務署が受け入れてしまったところがありました。税務署が認めた以上、雇用保険も抜けということでこれも認められてしまいました。別なところではビデオレンタル店の店長を請負としていたところ税務署の調査の際、請負制が否認され、遡って源泉税を徴収されたところがありました。ある社会保険事務所では、請負とは名ばかりでこれは労働者であるとして、請負契約者を社会保険に強制的に加入させられたところもあります。したがって社内独立性は危険が多くありますが、何らかの形で取り入れていくことも視野に入れておく必要があるでしょう。

 

※社内インディ制度…当会ホームページをご参照ください

税理士からのアドバイス(執筆:石林 正之)

現在、多くの企業では体質の改革をはかっており、余剰人員や非能率的な労働の見直しを行っております。また、企業のグローバル化が進み、国内だけでなく海外に出張することも珍しくなくなりました。その結果、従業員は能率的な作業をしなければならず、一人ひとりにかかる労働の負担が増え、労働時間が増加する傾向にあります。企業としては、従業員に対してどのように報いればよいのか悩むところです。

1.交通費、宿泊費及び日当の税務上の考え方
税務上、従業員が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるものについては課税されないことになっています(所得税法9条1項4号)。つまり、出張時に従業員に支給される旅費は、豪華なホテルに泊まったり、観光をしたりしない限り、給与とされず所得税がかからないということになります。このうち交通費、宿泊費については、一般的に領収書があるので実際に支払われた金額で精算することになります。これに対して日当は、実費精算ができないので給与として課税される可能性があります。そこで旅費規程を備え、日当が一定の基準に基づいて支給されている場合は旅費として認められるようになります(所得税基本通達28?3)。

旅費規程を作成するにあたっては、以下の2つの条件が必要とされています。(1)その支給額が、その支給をする会社の役員及び従業員のすべてを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであること、(2)その支給額が、その支給する会社と同業種、同規模の他の会社が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであること(所得税基本通達9?3)。

出張した従業員は旅費規程に基づいて、領収書を添付した旅費精算書を作成し、会社の承認のもとにお金を受け取ります。このとき、従業員に対して会社からその旅行に必要な支出に充てるものとして支給される金品の額が、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲の金額を超える場合には、その超える部分の金額は課税されることになります(所得税基本通達9?4)。つまり、支給される金額が通常必要とされる旅費の範囲を超える場合、その超える部分については、従業員に給与を支給したとして所得税がかかることになります。ちなみに、会社は旅費規程に基づいて旅費を支給する場合は、旅費交通費等として損金に算入することができます(法人税基本通達9?7?6参照)。

● 本件に対するアドバイス
  A社の問題点は、労働時間が長時間化しやすい業態にあって、G社長が人件費削減のために出張を多用し、社員の気持ちを理解しなかったことにありそうです。もし、社員に対して働いた分、出張した分の対価を支払っていれば、社員が席を立つこともなかったと思われます。
事例におけるA社の旅費規程では、出張するに当たっても3,000円の手当がつくだけで日当もないみたいです。旅費について合理的な運用がなされなければ、社員が不満をもち、やる気が減退しますので、公平な基準を作成する必要があります。出張に際して支給される金額が社会通念上妥当と思われるものであれば、前記で述べたとおり税務上問題は生じません。
交通機関が発達し、昔なら一泊での出張が必要だった地域でも日帰りができるようになりました。したがって、旅費に関しては実費精算になりつつあるように思われます。
A社では、出張手当が従業員の時間外労働の補填という意味がありそうです。しかし本来は、従業員が働いた分に応じて対価を支給するべきです。そのためには、時間外労働に対しては給与として支給すべきであると思われます。もし、現状のままであれば、優秀な従業員が辞め、人材がいなくなり、能率が低下する危険性があります。
従業員のやる気を引出すには、個人の目標を明確に設定し、目標を達成し会社に貢献したときは評価していくことが必要だと思われます。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRアップ21千葉 会長 高柳 克之  /  本文執筆者 弁護士 守川 幸男、社会保険労務士 曽我 浩、税理士 石林 正之



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