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第36回 (平成17年2月号)

減給の制裁を給与ではなく、
賞与で実施する方法に変更したところ…!?

SRアップ21大阪(会長:木村 統一)

相談内容

J社社員の平均年齢は28歳と若く、かつての勢いはなくなったものの、ソフトウエアの開発技術には定評があり、社員の年収も平均800万円と高額になっています。これまでは、社内の言葉遣い、服装、勤務姿勢、勤務時間などは、あまり問題にしていませんでしたが、社長の心境の変化でしょうか、やたらと“マナー”や“モラル”といった言葉が社内を飛び交うようになりました。ある日、全社員を集めて社長が話を始めました。「わが社の職場環境を変えなければならない。新しく入社した社員が定着しないのは、職場環境が悪いからだ…」と、延々と続きます。そして、新しい就業規則の服務規定、遵守事項、制裁について説明がありました。特に制裁については、“減給は賞与で行う”とありましたので、社員たちは皆驚きました。
「普通に仕事をしていれば何の問題もない。ただし、上司や目上に対する言動やだらけた服装をしないこと、休憩時間を守ることなどをきちんとやればいいだけだ…」社長は話し続け、その日の社員はただ聞いていただけでした。
数日後のブロジェクト会議で、興奮した一人のシステムエンジニアが営業部長を突き飛ばすという事件が発生し、その社員は減給処分となりました。

相談事業所 J社の概要

創業
平成8年

社員数
23名

業種
ソフトウエアの開発

経営者像

ベンチャービジネスが脚光を浴びはじめた時代に設立したJ社のB社長は、まだ34歳の若さです。「できる社員にはいくらでも払う」が社長の口癖でしたので、社員たちも服装・勤務時間がかなりラフでも、仕事さえできればいい、といった感覚でいました。しかし、最近のB社長は、“忠誠心”や“マナー”が気になるようになりました。「仕事ができることはもちろんだが、自分に対する態度はもとより、服務規則を遵守しなければならない…」と社員に対する考え方が変わってきました。


トラブル発生の背景

B社長がこれまでの労務管理を見直したのは良いことなのでしょうが、あまりに性急すぎて社員たちのリセットが追いつかなかったようです。
規則の見直しに伴い、制裁に関するすべての決定権は社長が有することになりました。 よって、本件加害者であるシステムエンジニアの意見はまったく聞きいれられません。
また、月次給与ではなく、賞与から減給を行うことでその額が高額となってしまったことから、加害者である社員の不満は膨張しました。

経営者の反応

事件を起こした社員の予定賞与額は100万円でした。しかし、この事件で9万円が減額されました。社長に談判しましたが「賞与総額の1/10以下だから法律の範囲内だよ、解雇されなかっただけでも十分だろ」と話を聞いてくれません。幹部社員も社長に逆らってはまずい、と知らん顔をしています。しかし、一部の社員たちは「ちょっとやりすぎじゃないか?…」「本人の言い分も聞くべきだ…」「普通は月給で減給するのじゃないか?」などと結集し始めました。
B社長は何となく嫌な雰囲気を感じとると「君たちも注意したまえ!」と一括し、その日は会社を出ました。「別に悪いことはしていない、他の社員への見せしめにもなるし…」と思いながらも、「変な辞め方されても困るしな…」と、専門家へ相談することを考え始めました。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:上坂 明)

まず、賞与・一時金の法的性格についてご説明しましょう。
賞与・一時金は、就業規則中に賞与等に関する規定を設けるのが一般的となっています。その内容は、支給時期や支給基準などについて簡単な規定を設けるものが多く、また、労働組合がある場合には、団体交渉で支給額や計算方法等細部についての事項をその都度決めるとされていることも多いようです。
賞与は、労働協約や就業規則に賞与を支給する旨の抽象的規定があっても、支給率や額について、使用者の決定あるいは労使間の合意がなければ具体的な請求権は発生しないと解されていますが(東京地判S58.4.20等)、本件では、使用者の決定があるのでこの点は問題となりません。
次に懲戒処分と賞与の問題です。

賞与が賃金として認められる場合でも、そこには収益分配や功労報償といった不確定要素も含まれています。賞与における考課・査定はこれらの不確定要素を対象とするものといえます。従って、労働者に何らかの非違行為があった場合、考課・査定の面で評価が低くなり減額支給となることがありえます。このような場合、それが法的に許されるか否かは、?査定が労基法3条等の法令に違反していないか、?考課・査定の評価基準や具体的な評価が当該非違行為の程度との関連で合理性を欠き裁量権の逸脱とならないかに関わってきます。
本件のように、賞与の算定対象期間中に懲戒処分が発生した際の賞与減額支給ないし不支給を就業規則に定めている場合もあります。
さて、賞与の減額・不支給が減給制裁としての性格を有する場合には、懲戒事由の存在と懲戒処分の程度の相当性に加えて、懲戒手続きの適正さが求められます。
なお、事案は異なりますが、就業規則における懲戒被処分者を賞与の受給無資格者とする定めによって、条件付き出勤停止処分を受けた者に対して、さらに賞与を不支給とした事案において、当該条項は、他に存する企業への貢献度をいっさい考慮することなく一律に無資格者と定めており、実質的には懲戒事由該当を理由とする制裁を定めたものと解すべきであり、労基法91条の制限を超えるものとして無効としたものがあります(札幌地室蘭支判S50.3.14)。
本件においては、制裁すなわち懲戒処分としての減給が問題となっていますが、上述のように、減額の根拠規定があれば月次給与ではなく賞与から制裁として減給することも法的に可能です。しかし、その場合にも、就業規則等に規定されている手続きを履践することが必要ですし、懲戒処分の程度の相当性も問題となります。
この点本件では、加害者であるシステムエンジニアが、プロジェクト会議において議論が白熱した末に、営業部長を突き飛ばしています。幸いにも、営業部長はけがもなかったようですし、被処分者がこのような非違行為を繰り返していたという事情もなさそうです。

このような状況下で、本人に弁解の機会も与えず、いきなり減給処分とすることは適正手続きの観点からも、処分の程度の相当性の観点からも、無効となる可能性が高いと思われます。仮に無効となった場合には未支給の9万円を追加支給することになります。
また、減給処分が不法行為となり、慰謝料の支払い義務が発生する可能性もあります。
もっとも、本件程度であれば慰謝料額は低額にとどまるでしょう。
オーナー社長が実質上大きな支配力を持つ中小企業においては、手続き面がとかく無視されがちになり、処分の内容も感情に任せたものになりがちです。しかし、特に手続き規定が設けられていない場合であっても、懲戒処分の対象となっている者に弁解の機会を与えることは最低限必要と考えるべきですし、処分内容も合理性をもつものでなくてはなりません。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:北村 庄司)

会社の立ち上げ時には、事業構築や事業遂行の旗印の下、組織の団結力は高く、人心は一つになりやすいものですが、事業が軌道に乗り出し、時間の経過や人員の増加等の要因により、組織の風土や秩序の維持が大きな問題となることがよくあります。これは、組織の「高度化」プロセスでは、ある意味避けて通ることのできない問題です。
本件もまさしく組織の成長過程における節目の出来事といえ、社長の心情も十分に理解することができます。しかし、組織の秩序に対する社長の不安やあせりが今回の事件の背景に大きな影響を与えたことは否めません。

B社長には以下のアドバイスを行いました。
?システムエンジニア(以下「A社員」とします)の上司に対する行為が、減給という処分相当であったか
まずこのA社員の過去の懲戒処分歴や日頃からの勤務態度がどうであったかということ、さらには事件の舞台となったプロジェクトでのもう一方の当事者である部長にもその事件を引き起こすような原因(例えば、A社員に対して不適切な発言等)はなかったのかどうかを十分に調査したか、また、これまでの同社における懲戒処分と比して今回の処分が重過ぎないかどうか、がポイントとなります。処分の程度の決定には、本件における背景や情状を十分に考慮して、懲戒処分の本来の目的が最も効果的となるような決定を行うことが重要です。ただ厳しい処分を課すことは、かえって社内のモラールを低下させることもある、ということを念頭においておくべきでしょう。
さらに、新しい就業規則の懲戒規定における処分の対象事由として、今回の事例に該当する定めがあるかどうか、も重要であり、そうした事由が規定されていなければ、処分自体が無効となることもありえます。(通常は、事由の最後に「その他前各号に順ずる程度の不適切な行為があった場合」という規定を定めておきます。)

?懲戒処分の決定が、社長のみの決定で実行されており、その処分決定のプロセスに問題はなかったか
処分の決定については、就業規則等で「賞罰委員会等の審議に基づいて決定する。」といった手続に関する規定条項があれば、その手続きを経ずに行った処分は無効となりますし、そうした規定がないとしても、少なくとも本人に弁明の機会を与えるべきであったといえます。
「事業主は懲戒処分権限を有する」とはいうものの、一方的な問答無用方式のやり方には大いに問題がありますし、こうした社長の姿勢は、前述したように社員の会社に対する不満や不信に繋がりかねません。

?減給を賞与で行ったこと、また9万円という減給の額に問題はなかったか
労働基準法において、賞与は「賃金」とみなされていますので、賞与での減給控除については、問題はありません。しかし減給の額については、問題があります。
労働基準法第91条では、「・・減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない。」と規定されています。この「1回の額」とは、「一懲戒事案に対する減給額」であり、1回の懲戒に対する減給制裁は、平均賃金の1日分の半額を超えてはなりません。また「総額」とは、「一賃金支払期間中に懲戒事案が2以上積み重なった場合の総減給額」を意味し、一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えることはできません。(賞与で減給を行う場合には、当然賞与総額の10分の1が上限となります。)
したがって、今回の減給処分の対象となった事由が一つであるならば、減給の額を賞与総額の10分の1である9万円とすることはできず、月給、賞与にかかわらずA社員の平均賃金の1日分の半額までの減給となります。 ただし、減給制裁の対象となる事案が複数ある場合には、各事案に対して平均賃金の1日の半額まで減給することができ、今回のケースにでも減給対象となる事由が他に複数あり、各事案の減給額合計が9万円となるならば問題はありません。
今回の減給の額については、直ちに修正し返還対象となる金額はA社員に返還し、訂正をしなければなりません。
なお、各減給額の総額が当該賃金支払期に支払われる賃金総額の10分の1を超える場合には、その超えた分については、翌月以降の賃金から行うことができます。
また、一事案に対して、一回の減給は平均賃金の1日分の半分であっても、その減給を数回(何ヶ月)に渡って行うことは当然労働基準法違反となります。

?懲戒処分に対する社長の考えや社員全体に対する社長の姿勢に問題はなかったか
社長は、“マナー”や“モラル”の低下で職場環境が乱れ、それが新入社員の定着率の悪さを招いていると判断し、就業規則・懲戒規定の改定を行ったようですが、社員の意識変革を安易に懲戒処分の厳格化に求めたこと、また一方的に規定改定を「通達」し、さらに十分な調査なくA社員を処分決定してしまった姿勢が、逆に社員の中に不信感を芽生えさせてしまいました。このままでは、ますます社内の雰囲気が悪くなります。
懲戒は、社員に対し、遵守しなければならない組織秩序の最低ラインを知らしめ、最悪の状態を招かないための最終手段と言えます。つまり、懲戒とは社員の“マナー”や“モラル”向上のための手段ではありません。組織の意識改革やモチベーションの向上は、日頃からの良好な労使関係の中で築き上げていくことが、地道ではありますが最も有効な手段なのです。
事業主としての毅然とした姿勢が大切であることは当然ですが、行き過ぎた懲戒権の行使は、逆に労使関係に溝を作る「両刃の剣」にもなりかねないものであると認識すべきでしょう。
「ルール違反者を罰する」ことは当然ですが、「違反行為を行った社員に、心からの反省を促し、再発させない」ことが、懲戒処分本来の目的であるはずです。さらに、当事者以外の社員に対する知らしめもあるが故に、誰からも十分納得される処分の内容、程度そして決定に至るプロセスを踏むことが重要なのです。

J社の今後のために、懲戒に関する有効要件について判例等を踏まえて述べておきます。
●懲戒処分の有効要件について
(1)就業規則等により、懲戒事由およびその程度を明記しておくこと 労働基準法第89条第9号に「制裁の定めをする場合においては、その種類および程度」を記載することが義務付けられています。(これは「相対的記載事項」といいます。)したがって、懲戒処分をなしうるためには、その理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則上明記されていることが必要となります。
ただし、例外的に「明らかに企業秩序を乱し、企業目的遂行に害を及ぼす労働者の行為に対しては、使用者はたとえ準拠すべき明示の規範のない場合でも」懲戒処分ができるという判例もあります。(昭和26年7月18日東京地裁決定 北辰精密工業事件ほか)ただし、どのような処分を行うかについては、就業規則に定められた種類の処分に限定され、就業規則にない処分を勝手に行うことは、原則として認められません。(昭和38年1月28日広島地裁判決 広島厚生事業協会事件)

(2)懲戒処分については、同一種類、同一程度であること
同じ規定に同じ程度に違反した場合は、これに対する懲戒の内容は、同一種類・同一程度であることが必要となります。すなわち、同様の事例についての先例を十分に踏まえ、従来の懲戒の種類や程度と同様の内容となるように行われなければなりません。
また、従来黙認してきた種類の行為に対して、処分を行うには、労働者に対する事前の十分な警告が必要となります。

(3)行為の種類や程度と処分内容が相当であること
労働者の行った規律違反等の行為と使用者が課した懲戒処分が相当でなければなりません。つまり、軽微な行為に対して、重い処分を課することは、懲戒権行使の濫用となります。
判例においても、懲戒事由の該当性は肯定されながらも、当該行為や被処分者に関する様々な状況を考慮して、行為と処分の相当性が否定され、重きに失するとして無効とされている事例が多くみられます。(昭和49年3月1日最高裁判決 日本鋼管事件等)

(4)懲戒処分の手続を適正に行うこと
懲戒処分は労働者に不利益をもたらす行為なので、その発動に当たっては、適正に行われることが求められます。就業規則や労働協約で懲戒委員会の諮問を経る等の定めがあるならば、必ずその手続を踏まなければなりません。
こうした手続を経ずに成された懲戒処分については、ささいな手続き上の瑕疵があるにすぎないとされるものでない限りは懲戒権の濫用として無効とされます。
(平成8年7月26日東京地裁判決 中央林間病院事件)

(5)懲戒規定を遡及適用しないこと
懲戒処分を課すには、懲戒事由を就業規則等に明示しておくことが必要である旨は(1)で触れたとおりですが、当然、就業規則等に明示した懲戒処分の種類や事由をその設けられる以前の労働者の行為に対して遡及的に適用することはできません。(不遡及の原則)
あくまでも、就業規則等に懲戒規定が設けられた以後の行為に対してのみ、有効なのです。したがって、懲戒相当の違反行為があってから、当該行為に対する懲戒を目的としてあわてて規定を設けたとしても、原則として懲戒することは許されません。

(6)1つの行為に対して、2回以上の懲戒処分をしないこと
一度何らかの処分を課した行為について、処分後、さらに懲戒処分を課すことはできません。(一事不再理の原則)
ただし、同じ労働者に関して短期間の間に他の懲戒事由が発生した場合には、処分決定に際して、以前の行為を情状として考慮することは許されますし、また、以前に懲戒処分を受けながら、その後改悛の情なく再び繰り返したという場合には、前の処分を情状として考慮し、相当に重い懲戒処分に処することは許されます。

懲戒処分に関する過去の判例では、「昭和47年11月9日東京地裁判決 富士重工事件、同旨、昭和52年12月13日最高裁判決、本件上告事件」や「昭和38年6月21日最高裁判決 十和田観光鉄道事件」において、「企業秩序は、多数の労働者を擁する企業の存立、維持のために必要な秩序であるから、使用者は、企業秩序が乱されることを防止するとともに、もし企業秩序に違反するような行為があった場合には、その違反行為の態様、程度等を調査して違反者に対し必要な業務上の指示を与えたり、あるいは業務命令を発し、また就業規則等に基づき懲戒処分を行うこと等によって乱された企業秩序を回復、保持する必要」があり、懲戒処分は「企業秩序の違反に対し、使用者によって課される一種の制裁罰」であるとされています。
使用者が「懲戒処分権限」を有しているのは、法律上および判例からも当然のことと解されていますが、やはりそこにはルールの遵守と権限行使に当たっての使用者側の節度が求められることは言うまでもありません。

税理士からのアドバイス(執筆:飛田 朋子)

J社の場合、就業規則によって減給は賞与で行うとのことですので、まず、賞与の意味合いについて考えることとします。
賞与には、2つの側面があります。ひとつは、給与とともに年収を構成するもの、たとえば「年収500万円という場合には、給与と賞与の年間合計が500万円であると認識する」など、当然として定期的に支払われるものとして、従業員は考えているものである側面、もうひとつは、会社の業績によって、金額が上下したり、支給がされたりされなかったりする、という業績による利益の配分であるという側面です。
たとえば、経営者側では、業績に見合った利益の配分として賞与を設定している場合でも、社員側では、通常当然として支払われるべきものとして受け止めている場合、また、高収益によって毎年賞与が増加している状況下では、従業員側では、必ず支払われるもととしての認識となり、その後減少した場合には、不満が生じることとなります。
そこで、賞与の2つの側面を経営者側と従業員側とで、できるだけ同様の認識を持ち、賞与の意味合いを位置付ける必要があると考えます。このことが、ひいては社員のやる気を起こさせるかどうかに大きくかかわります。もちろん、現実には、2つの側面を併せ持っていますので、賞与の内訳についてもその性質をわかりやすく表現すること、できれば、説明を行うようにすると効果的です。

次に決算賞与について考えてみましょう。決算賞与は、賞与の中でも特にその期の業績の良否により支給するかしないかを判断するものです。会社の業績が良かった場合には、外的要因もありますが、内的要因による結果が大であるといえます。
この内的要因のうち「従業員の会社への貢献度」に対して、決算賞与を支払うことで、社員に対して、「貢献した社員への評価」を表現し、今後の「さらなる貢献」を目標とすることが、決算賞与の本来の目的です。
したがって、支給時には、決算賞与の本来の意味を経営者から従業員に十分に伝達することが重要です。まちがっても、「決算賞与は毎年支払われてあたりまえ」という認識を社員が持ってしまうと、本来の“さらなるやる気を起こさせる目的”とまったく逆の結果となりますので、そのようなことがないように注意してください。
また、決算賞与は、税務的には、一定の条件を満たせば、今期の損金として取り扱うことが可能となり、税金を削減することが可能となり、節税効果が生じます。中小企業では、決算賞与を節税対策として活用することに重点が置かれる傾向がありますので、従業員への説明がおざなりになります。せっかくの従業員のやる気を起こさせる効果的な機会ですので、節税対策とともに活用してください。

【決算賞与の損金処理条件】
決算賞与支給を税務上、当期の損金として取り扱うためには、次の2つの支給方法があります。
1.決算日までに決算賞与の支給を行う方法(原則)
2.未払費用処理をする方法 今期で未払処理した場合、損金として取り扱うためには、次の3つの条件を満たす必要があります。
(1)決算日までに決算賞与の支給額を各人別に受給者全員に通知すること
(2)決算日後1ケ月以内に受給者全員に支払うこと
(3)決算で未払金(未払費用)に計上すること

2の方法は、決算賞与の支給を行いたいが、資金繰りが今期中につかない場合に有効な方法として利用出来ます。
具体的に、(1)の通知は、書面で行い、決算日までに通知を受けた旨のサインを各従業員からもらっておくことが必要です。また、(2)の支払いについては、振込みで支給する場合は、振込日で支払確認が可能ですが、現金支給である場合には、各従業員から受取書を徴収する必要があります。これらの書類は、後日税務調査などがあった場合に提示する必要があるものです。

なお、本件システムエンジニアの社員に対して、当初減額されていた賞与9万円が後日追加で支払が行われた場合について考えます。この場合、B社では、源泉徴収を行なう必要が生じます。この場合、追加支給時における源泉徴収税額は、当初の支給額と追加支給された9万円の合計金額に対する賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表により計算した税額から、当初の支給時に徴収した税額を控除して計算することとなります。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRアップ21大阪 会長 木村 統一  /  本文執筆者 弁護士 上坂 明、社会保険労務士 北村 庄司、税理士 飛田 朋子



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