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第138回 (平成25年7月号) SR熊本会

景品やポイントも会社のものでしょう!
「そこまで管理しなくても…」

SRネット熊本(会長:菊池 寛治)

J協同組合への相談

小規模ながらその技術力には定評のあるK社はJ協同組合に加入し、これまでも事業活動のサポートを受けてきました。仕事柄出張が多いK社の社員達ですが、あるときK社の経理の社員達が「最近はポイントだのクオカードなど旅行パックにおまけがあるものが多くなったね」「そういえば、マイレージも余禄ですね…」「自分はカードを使ってポイントをためて、会社からは立替金精算で現金をもらうということも何となくしっくりこないなぁ…」と雑談をしていました。

そのとき、たまたまそこを通りかかったK社の社長夫人である専務が「なんですって、それは不正行為ではないの!」と目を丸くして、経理部員達に詰め寄ってきました。経理部員のひとりが「不正ではないでしょうが、“会社の経費”ということを考えると、いかがなものか、という感じもします」と返答すると、専務は、それみたことか、という感じで「社長と相談してくる…」と経理部を飛び出しました。夫人から話を聞いたK社の社長は、「横領だ!懲戒だ!」と騒ぐ夫人をやっとのことでなだめて、やれやれという表情で組合事務局に訪れました。「個人的には、“そこまでしなくても”という気がしますが、他社さんはどのように取り扱っているのでしょうか?会社ですべて手配すれば問題ないのかもしれませんが、それはそれで面倒ですし…」と、どうしたものかと困っています。このままですと、専務が大ナタを振るいそうな予感がしますので、ことが大きくなる前に善後策を相談したいとのことでした。

税務上や労働法上の問題をはらんでいるようにも思えた組合事務局では、専門的な相談内容について連携している地元のSRアップ21を紹介することにしました。

相談事業所 組合員企業K社の概要

創業
1972年

社員数
正規 65名 非正規 31名

業種
電気設備工事業

経営者像

K社の社長は62才、全国各地のプラントの電気工事を請け負っています。確かな技術と安全施工をモットーとして、社員教育にも力を入れています。
他の会社との差別化を図るため、礼儀作法にもうるさいK社の社長は、曲がったことが大嫌いな性格です。


トラブル発生の背景

かりに、実勢価格が10、000円とするとポイントが100円分還元される、そうすると、経費は10、000円ではなく、9、900円で済む、というのが専務の考えです。 果たして、ポイントなどを申告させて、それを差し引いた経費精算ができるものでしょうか。また、社員がカードで購入した代金の精算をすぐには行わず、カードの支払いに合わせるような時期の精算とできるものでしょうか。
さらに、クオカードなどの景品は、会社に属するのでしょうか。
ここまで細かく言うような会社は、魅力がない会社なのか、それとも、白黒をはっきりするコンプライアンス遵守の会社なのでしょうか、いろいろと考えているとはっきりさせたくなってきます。

ポイント

雇用関係における“立替払い”に法的な拘束はあるのでしょうか。K社の問題は、おそらく、すべての会社に当てはまることでしょう。「ちりも積もれば」で管理を徹底した方がよいのか、あるいは、それくらいのことは気にしない、というのが現在の常識なのか。社員の気持ち(会社への反発)の問題が潜在化しているかもしれません。
K社の社長への良きアドバイスをお願いします。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:北島 武典)

ご相談の内容は、会社従業員が出張時に自分のカードを利用しながらマイルを貯めたり、ポイントやクオカードなどいわゆる「余禄」を取得しながら、立替金精算の際に「余禄」を報告することなく、領収書で示された金額を報告して、現金を取得することが法的に許されるのかというものです。

例として出張旅費の支給の場合についてご説明します。

一般的に、出張は、その可能性が雇用契約の内容に含まれており、就業規則等を根拠として従業員が所属長等から命じられるため、業務に当たります。そこで、出張にかかる旅費は会社から支給されることになります。出張時諸経費支給内容や手続については、一般的には旅費規程(社内規程)に規定されており、多くは?出張予定の所属長による命令(承認)とともに、?交通費や宿泊費が従業員に概算で仮払い、または従業員による立替払いがなされ、?出張後、所属長への出張報告とともに?実費による精算(最も経済的経路・最小限の費用の範囲内)という順でなされる場合がほとんどです。

さて、問題となっている個人のマイレージカード等を使用して取得したマイルやポイント等の経済的価値のある「余禄」が生じた場合、従業員は会社に返還すべきなのかどうか考えてみましょう。

この点、出張は会社の業務に当たるため、かかる旅費について、本来は、手続の上でも、すべて会社から交通機関や宿泊施設に対して直接支払われることが理想といえます。

そのためには、あらかじめ出張にかかる旅費(実費)を、会社が正確に把握する必要があります。しかし、事実上、会社が実費額を把握することは不可能です。そこで、便宜上従業員に概算による仮払いを行ったり、立替払いをしてもらい後日精算することにしているのです。そうだとすれば、従業員は会社に代わって支払いを行っているのであり、仮にこの支払いにより「余禄」を得られた場合には、これを従業員個人が得ることは認められないといえ、「余禄」は、会社に帰属すると考えられます。このことは、いわば、定価を基準として仮払いがなされていたところ、割引切符を取得したため、割引後の実費のみが旅費として認められ、それを超える額は精算時に会社に返還しなければならないのと同じ論理です。

つぎに、従業員が「余禄」を得た場合、その従業員に何らかの法的責任があるのかどうか、という問題です。まず、従業員が個人的に得た「余禄」たとえば、ポイント分の金銭については、会社のものであるため、不当利得として会社に返還する義務が生じます。もっとも、従業員がどのような「余禄」を得たのかについては申告がなければ会社が把握できないため、会社が自ら調査することは困難です(厳密に調査することは煩瑣です)。また、ポイントやマイルは直ぐに金銭として現実化されないため、返還するとしても精算期間に間に合わない場合がほとんどでしょう。さらに「余禄」の金銭が少額である場合には、会社の調査費用や訴訟費用等が多くなり、費用対効果の面でも問題となります。

一般的に従業員にしてみれば、「余禄」を一種のボーナスとして考えていることが多く、これに手を入れることは、従業員の士気に影響する場合があるかもしれませんので、多くの会社が民事上の責任を追及せず黙認していると思われます。

ただし、「余禄」の金銭が多額であり、従業員の悪質性が高いといえる場合には、当該従業員に業務上横領罪(刑法253条)が成立する可能性がありますので注意が必要です。業務上横領罪は、?業務上?自己の占有する?他人の財物を?横領したことですが、??に該当する上、「余禄」は前述のとおり会社の財物と評価でき(?)、また「余禄」を従業員個人のものとして使用すれば、不法領得の意思が発現した横領行為に当たる(?)と言えるからです。したがって、このような事件が発覚すれば会社としても大きなダメージを受ける可能性があります。

以上より、厳密にいえば、従業員が「余禄」を取得しておきながら、領収書で示された金額を報告して現金を取得し、「余禄」を申告せずに返還しないことは法的には許されません。会社としては、何らかの対策が必要であるというのが結論です。 

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:吉永 賢一郎)

筆者は、ボストンに本社のある外資系企業で長年働いていたため、海外出張が多い会社の社員の立場からしても、また高額の出張経費が発生する会社の立場からも、マイレージの取扱を無視できない環境にいました。マイレージは、80年代の初めにアメリカの会社が顧客囲い込みのために始めた制度ですが、その後、世界中の航空会社に広がりました。出張の多い社員になると、毎年家族全員で海外旅行ができる位のマイルが溜まります。そうすると社員は同じ航空会社を使って出張に出かける傾向になるのは自然の理です。

それでは、貯めたマイルに関する社内ルールを持っている会社はどの位あるのでしょうか?労務行政研究所が実施している2種類の調査があり、上場企業とそれに匹敵する規模の非上場企業を対象とした2011年の「国内・海外出張旅費の最新実態」調査では、“マイレージについて個人の自由とし、会社は関知しない”とする会社が98.7%に上ります。

一方、2007年の「人事労務管理制度の実施状況」調査では、25.5%がなんらかの規定を設けているという結果です。マイレージの私的利用のルールを決めたいと考える会社は多いと思われますが、マイレージを会社が管理する難しさを調査結果は示しています。マイレージは、出張経費を支払った会社に対してではなく、搭乗者である従業員に付与されるからです。また、プライベートな旅行やショッピング・公共料金等のカード利用でも貯まる為、出張で取得した分のみを取り出すのは簡単ではありません。

一方、家電量販店のポイントカードの場合は、大手3社に電話で問い合わせたところ2社は法人名義のカードの発行ができるという回答でした。従って、法人名義でカードを作成してもらい、経理や総務で管理するようにすれば良いでしょう。

それでは、マイレージ等の利用に関して社内ルールを導入する場合の策定のプロセスと留意点をご紹介します。

?まず、私的利用を制限した場合のメリットとデメリットを比較し、会社の方針を決めます。
制限するメリットとしては、私的恩恵を受ける社員と受けない社員の不公平感をなくす、社員の倫理感や合理的判断力を担保する、会社の経費を削減できる、などがあげられます。デメリットとしては、マイレージの中の業務関連とプライベート分を区別する為には、一定の事務コストや調べる社員に負担がかかる点、出張が多い社員には、プライベートな時間を犠牲(移動時間が労働者に自由利用が保障されており使用者の指揮監督下にないと実質的に認められれば労働時間としてカウントしません)にしていることへの見返りという考えがあるため反発が予想されます。そこで、社員へのヒヤリング調査、削減可能なコストと事務コストの予測を行った上で、会社の方針を決定する必要があります。

? つぎに、マイレージの私的利用禁止の規定例と合わせて出張旅費規程そのものの見直しに関する留意点を挙げます。
出張旅費規程は、社内外の環境の変化(TV会議の利用、交通インフラの進化、ネットによるチケットの予約購入等)に合わせて、適宜見直す必要があります。見直しを行う場合のポイントとしては、経費を削減できる仕組み、出張に係る手続や手配の合理化、出張者のモチベーションの維持、不正請求の防止、経費項目ごとの基準の明確化などが挙げられます。出張旅費規程の内容については、税法に目配りする以外は、企業ごとの実情に合わせて任意に定めることができます。

【参考】規定例
(空路の利用とマイレージの取扱い)
第○条
社員は、空路の利用にあたっては、最も合理的な経路と航空会社を選ばなければならない。
2 社員が航空会社から付与されたマイレージは、原則会社に帰属する。
3 社員は、蓄積されたマイレージを次回以降の出張で利用するものとする。

マイレージを会社が管理する場合は、就業規則の中の「懲戒規定」の中に、服務規律等の違反とともに、出張旅費規程の違反が懲戒の理由となることも加えるようにします。

出張旅費規程は、就業規則の本則から独立させて別規程としている会社が多いようですが、別規程にした場合も、「その事業場の労働者全員に適用される事項」に該当する場合は、就業規則の変更の場合の一連の手続(過半数代表の意見書をつけて労基署へ届出を行い、社員へ周知する)を踏むことになります(労基法106条)。変更の際は、社員へ理由を十分説明した上で行うことが必要です。

「マイレージ」や「ポイント」を、グレーにしておかない方が望ましいと会社で判断した場合は、速やかに対処することをお勧めします。

税理士からのアドバイス(執筆:小堀 郁江)

昨今のビジネスの局面においては、出張の際のマイレージや備品の購入に際する量販店のポイントなど、会社の業務に係るものではあるものの、結果として個人の懐に入ってしまうようなケースがあるのが実情です。厳密に考えるのであれば、これらのポイント等は、会社の業務に付随して発生しているものですから、当然、会社に帰属するべきもので、個人に帰属した場合には、返還をしなければならないと考える方が自然ではないかと思います。ただし、特に中小企業においては、このポイント等について、会社で管理しているところの方が少ないのも事実ですので、あるべき処理が実情に合わない場面もあるとは思います。

会社の会計処理
ポイント等における会計処理については、売り手側の会計処理については、会計基準の定めがありますが、買い手の処理については明確な基準がないのが現状です。

◇ポイント等の認識の時点
ポイントが発生した時点でポイントの発生を認めるという考え方にも合理性がありますが、金額的に重要でない場合には、そのポイントが発生したときではなく、ポイントが使用された時に会計処理をすることで問題ないのではないかと思います。

◇ポイント等の処理の科目等
(1)仕入値引き
ポイントが役務の提供や物品の購入の結果として付与されることに着目して考えると役務の提供や物品の購入の値引きとして考えることができます。
(2)雑収入処理
簡便的な観点からは雑収入での処理も可能だと考えます。

個人で使用した場合の処理
本来であれば、会社に帰属すべきポイント等が結果的に個人の懐に入っている場合には、会社と個人の両者に問題が生じる可能性があります。

◇会社の問題点
会社に帰属すべき雑収入が計上されていないことから、経費の過大計上として、または雑収入の計上漏れとして申告漏れを指摘される可能性があります。ただし、個人のお金の精算方法まで遡って、ポイントが幾ら使われているのかを把握しない限り金額が確定できないことから、金額的に重要性がない場合には、会社の税務調査においては問題にならないケースが多いのではないかと考えます。

◇個人の問題点
本来であれば会社に帰属すべきものが結果的に個人の懐に入っていることから、個人についても何らかの形で課税の対象となる可能性が高いと考えられます。ただし、どのような形で課税の対象となるのかについては、下記の通り様々な考え方があります。

(1)給与所得となるという考え方
給与所得とは、「雇用契約等に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。」と定義されています。今回のケースでは、会社が個人の懐に入ることを認めていた訳ではないことから、使用者からの給付とはいえませんが、会社の業務上で生じた経済的利益ですので、給与所得に該当する可能性があると考えられます。

給与所得に該当した場合には、従業員分であれば給与の一部として所得税が課税される可能性があります。また、役員がポイント等を使った場合には、役員給与となり、その金額は通常の場合、定期同額の要件を満たさないことから個人の所得税が課税されることはもちろん、会社の損金としても認められない可能性があります。

(2)一時所得となるという考え方
一時所得の例示として「法人から贈与された金品」というものが挙げられていることから今回のポイントが一時所得に該当するという考え方もあります。ただし、贈与とは、贈与者と受贈者の両者の意思の合致が必要ですが、今回のケースでは、会社が贈与をしたと認識していないことから、一時所得の条件に完全に合致する訳ではありません。

仮に一時所得と考える場合には、他の一時所得と合算して一年間で50万円以下であれば確定申告しなくてもよいということになります。

(3)雑所得となるという考え方
雑所得とは、その他の所得に該当しない所得のことをいいます。上記の通り、給与所得にも一時所得にも該当しない可能性があることから、雑所得となることも考えられます。雑所得と考える場合には、サラリーマンであれば他の雑所得と合算して20万円以下であれば申告が不要ということになります。

実務ではあまり大きな問題として取り扱われていないケースもあると思いますが、管理をきちんとすることを考えると、会社の負担も大きくなる場合が多いのではないかと思います。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRネット熊本 会長 菊池 寛治  /  本文執筆者 弁護士 北島 武典、社会保険労務士 吉永 賢一郎、税理士 小堀 郁江



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