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第134回 (平成25年3月号) SR北海道会

社内恋愛禁止!
どちらかが退職なんて…

SRネット北海道(会長:安藤 壽建)

F協同組合への相談

各種機械装置の主要部品を製造するL社は、F協同組合に加入し、これまでも事業活動のサポートを受けてきました。今般、L組合員より組合事務局に次のような相談がありました。

筋金入りの仕事人間だったL社創業社長は、製品構造や取引先の情報に関する機密保持について、かなり神経質な管理を行っていたため、誰と誰が付き合っている、という噂を聞くだけで、女性社員に退職を勧奨するようなことをしていました。そのためL社には、創業以来の暗黙のルールとして「社内恋愛禁止」「社員同士が恋愛関係になった場合は女性社員が退職」という風土ができあがったところがあります。

昔は、寿退社でハッピーなこともありましたが、現在はそのようなわけにはいきません。二人三人と社内恋愛の噂が広がってくると、古株の社員たちが社長に詰め寄ってきます。「先代ならとっくに退職させているよ、社長もうまくやらなきゃ、社内がガタガタになるよ」という感じで、対象となっている女性社員の退職勧奨を迫る始末です。「昔と違ってすぐに結婚するわけでもないし…」とのらりくらりしていると、「あの社長はだめだ」という社員たちの評価になってしまい、非常に困っているとのことでした。確かに「どうして彼女が知っているのだ?」という男性社員しか知らないはずの情報を付き合っている噂のある女性社員が知っていたということもありましたが、男性社員が漏らしたという確たる証拠があるわけではありません。下手に結婚を進めようものなら、セクハラで訴えられるかもしれません。これまで古株の社員に任せてのんびりやってきたこともあるので、彼らの考え方を無視することもできない、というジレンマにどうしてよいかわからないということでした。そのような中、社長の態度に業を煮やした古株の社員が、噂の対象となっている女性に退職を迫っているという連絡が入りました。

アドバイスを求められた組合事務局では、専門的な相談内容について連携している地元のSRアップ21を紹介することにしました。

相談事業所 組合員企業L社の概要

創業
1940年

社員数
正規 41名 非正規 15名

業種
精密機械製造業

経営者像

L社の社長は二代目の56才、あらゆる面で創業者の志を引継いでいることや、40代以上の従業員が6割以上を占めているため、L社の社風は昭和時代を感じさせるところがあります。本来は、世代交代に向けて若年者雇用を進めなければならないところですが、社長として居心地の良い環境に未だ動く気配がないようです。


トラブル発生の背景

古株の社員に退職を迫られた女性社員は、すぐに付き合っている男性社員に助けを求め、古株の社員と男性社員が一触即発の状態となり、双方の肩をもつ者同士も言い合いになるような状況がL社で起こっていました。やっとのことで総務部長が事態を収拾しましたが、あとは社長がどういった判断を下すのか、この点に社員たちの興味が集中しているようです。機密保持といいながらも、これまで放任しておいて、急に態度を変えることは、かなり難しいことでしょう。

ポイント

社員同士の恋愛に関する社内ルールの必要性。家族であっても漏らしてはならない情報、といった機密情報のレベル設定など、社内恋愛禁止の前に、やるべきことがたくさんあるようです。L社の核となっている中高齢社員の意識改革も必要でしょう。
本件の円満な解決方法について、良きアドバイスをお願いします。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:淺野 高宏)

最近の芸能ニュースでは、「恋愛禁止」というルールを掲げる超人気女性アイドルグループのメンバーが交際男性宅に宿泊した事実を週刊誌に掲載されたところ、当該の女性アイドルが自らの髪をバリカンで丸刈りにした上、インターネットの動画サイトで謝罪を行ってグループから脱退させられないよう懇願したということが話題になっていました。アイドルは大衆の憧れの対象であり、大衆から期待されているイメージに応えることで支持を集め、商業的にも成功をおさめることができるという職業上の特殊性を有しています。ですから、商業的成功を維持継続するためには、大衆のイメージを損なわない、ということも重要なファクターとなります。そのため、大きな商業的な成功と引き換えに、アイドルと所属事務所、または特定の取引先との間において合意の上で交友関係や言動も含め、私的領域の自由を一定程度制約する条項を設けることが一概に不合理とはいえず、上記のアイドルグループの所属事務所において「恋愛禁止」というルールを設けること自体が直ちに公序良俗違反とまではいえないでしょう(もちろん、ルール違反について公序良俗に反してでも「脱退」させる、すなわち「解雇」して良いかとなると合理性・相当性が問われる余地はあります)。

一方、一般の民間企業において雇用される通常の労働者の場合、労働契約締結にあたり合意しているのは、あくまで使用者の指揮命令下で労務を提供し、その対価として賃金を受領するということであり、それ以上に、労働者が自らの望む人と自由に人間関係を形成する自由について、使用者が好き勝手に制約してよいという合意はしていないとみるのが通常でしょう。最高裁は、職場が労働者にとって単なる労務提供の場に止まらず人間関係形成の場であるという現実を直視して、労働者の職場における自由な人間関係を形成する自由を使用者が不当に侵害することは、労働者の人格的利益を侵害するものであり不法行為を構成するとしています(関西電力事件・最高裁平成7年9月5日労判680号28頁)。そして、職場において恋愛感情を伴う形で人間関係を形成する自由も、労働者の人格権として尊重されるべきであるといえます。L社の先代社長のように、誰かと誰かが付き合っている、という噂を聞くだけで、女性社員に退職を勧奨するようなことは、労働者の人格権を不当に侵害する違法な行為とされる可能性が高いといえます。

したがって、これを就業規則の服務規律として明文化していたとしても(または解雇事由として記載していたとしても)、当該就業規則条項が法的拘束力を有するための要件である「合理性」(労働契約法7条)の要件を満たさず、法的効力は生じないとみるべきです。要するに、「社内恋愛禁止」を明文化しても、単に心得か社訓のようなものに過ぎず法的拘束力はないといえるわけです。

さらに、社内恋愛により会社の風紀を乱すおそれがあるとして、「恋愛」そのものを禁止しているのではなく「会社の風紀を乱している」という服務規律違反の点を問題としているのであれば、職場秩序維持の観点から会社が一定の合理的措置をとることは許されるはずということになりそうです。

しかし、男女雇用機会均等法第6条4号は、事業主が男性労働者よりも優先して、女性労働者に対して退職の勧奨をするような行為は、女性であることを理由に退職勧奨につき差別的取扱いをするものとして禁止しています(平成18年10月11日厚生労働省告示第614号「第2、10、(2)、ニ、?」参照)。ところで、社員同士が恋愛関係になり、仮にそのことが原因で他の同僚らの不興を買い職場の風紀が乱れたとしても、特段の事情のない限り、男女のいずれか一方のみに責任があるとするのは不合理であり、性別による差別的取扱いと評価される可能性が高いといえます。

そもそも、職場内恋愛を禁止すると機密保持が保たれるという因果関係があるのかどうかも不明です。したがって、L社としては機密を保持したいならば、まずは機密の定義を明確にし、管理者を特定し管理規程を整備するなどの機密保持体制を確立することが先決であるといえます。いずれにしろ「職場内恋愛の禁止」というルールでは機密保持は図れませんので、L社には順法意識の涵養と実効性ある対応を速やかにとることが求められます。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:岡本 洋人)

L社の創業社長は、製品構造や取引先の情報に関する機密保持について、かなり神経質な管理を行っていたようです。過去に自社独自のノウハウや技術、取引先情報の漏えいなどによって辛い想いをしたのかもしれません。たしかに、今ほど機密情報や個人情報などに対しての法規制もなかった時代には、自己防衛として取引先やライバル企業、そして自社の社員の一挙手一投足に神経を尖らせざるを得なかったのかもしれません。

ここで、情報漏えいを防ぐために適切に機密情報を管理する方法を説明します。

第一段階として、機密情報データや書類等(以下「機密情報等」という)の把握作業を行います。機密情報等と思われる情報の?種類、?書類・電子データ・映像・写真等の属性、?技術情報・顧客情報・社員情報等の分類、?収集目的や利用目的、責任者、保管場所等の機密情報の利用、?業務上必須か任意かの必要性、入手手段の適法性・適正性、機微な情報を含むかどうかの内容チェック等を行い、会社で管理が必要な機密情報等として取り扱うかどうかの判断をします。不適切あるいは不必要なものはこの段階で廃棄を行います。

第二段階として、?紙の機密情報の保管場所、施錠等の保管状況、あるべき保管状態、?コンピュータ内の機密情報の保管場所、パスワード等の設定状況、あるべき保管状態、?協力会社・出入り業者名、担当者名、持ち出す可能性のある機密情報、持ち出す際のルールのあるべき姿の設定を行います。受け渡し証の交付、密封できる鞄や箱での持ち出し、利用目的の制限や約束決めの誓約書の取り交しについてはここで決めます。

第三段階として、機密情報等の管理台帳を作成するために各種情報の整理をします。ここでは機密情報等の?名称・分類、?管理責任者、?保管場所・保管方法・保管期限、?廃棄方法・廃棄担当者・廃棄記録、?複写制限、?FAX送信制限、?メール送信制限、?参照制限等を設定します。機密情報等を取り扱うことができる人を誰にするかは?参照制限で設定します。

第四段階として、機密情報等の種類ごとに、?取扱プロセス、?実施部門、?予想されるリスク等を検討します。取扱プロセスや予想されるリスクに対しては、就業規則等で遵守事項や懲戒等に厳格に規定します。

こうしたルールは、情報保護規程等で定めることが一般的です。そして、機密情報管理を行うための各種書式を整備し、あわせて社内で勉強会を行うなど周知徹底することが大切です。また就業規則等に機密情報等を漏えいした際の罰則や損害賠償、退職金の減額等を明記し、機密情報保護に関する誓約書を書かせることで情報漏えいに抑止力を持たせます。退職後のノウハウ等の流出を防ぐためには、?就業規則や退職時の誓約書等に競業避止義務を定めること、?機密情報を取り扱う社員に機密情報取扱手当等を支払う、?退職金に機密情報保持の性格を持たせる、あるいは機密情報取扱者には退職金を増額するなど、規程上の取扱いも検討します。

L社が今後労務管理上注意すべき点としては、第一に、古株の社員達に対して社長の方針を説明することがあります。先代社長は機密情報等の漏えいという目的を達成する手段として「社内恋愛禁止」「社員同士が恋愛関係になった場合は女性社員が退職」という対応をし、風土を醸成してきました。しかし、このような手段ではなく、今後は個人情報保護法その他の法令に従い、適切な機密情報等の管理を行うことを宣言し実行すべきです。

第二に、全社員に向けては、いたずらに「社内恋愛」を奨励するわけではなく、恋愛のもつれなどから業務に私情を挟み、正常な業務が出来なくなる恐れがあること、特定の人物だけ優遇される、あるいは他の社員が不快感を示し、業務に集中できないなどの業務上の支障が出た場合は、指導注意の対象になるため厳に慎んで行動すべきことを説明します。また、家族であっても会社の機密情報を漏らしてはいけないことを理解し実行してもらうことは重要なことです。そもそも「会社の機密情報とは何なのか」をいま一度問い直し、全社員で勉強し共通の認識を持つことで、新たに前向きで明るい社内風土が醸成されるのではないでしょうか。

税理士からのアドバイス(執筆:中村 圭佐)

本件は、古株社員と若手社員との世代間の確執というのが一つの要因になっているかと思われます。時代の変化をとらえながら企業が継続していくためには、経営者のみならず、幹部社員、従業員の世代交代は重要なテーマです。この点、世代交代を視野に入れて、新たに従業員を採用した場合、法人税の税額控除が受けられる「雇用促進税制」という制度が平成23年度税制改正により設けられております。

雇用促進税制とは、各事業年度中に雇用者数を5人以上(中小企業は2人以上)かつ10%以上増加させるなど一定の要件を満たした事業主が、当期の法人税額の10%(中小企業は20%)を限度として、増加雇用者数1人あたり20万円を当期の法人税額から控除できるという制度です。適用要件としては、雇用者数の増加以外にも、適用年度とその前事業年度に事業主都合による離職者がいないこと、適用年度の給与支給額が一定額以上増していること等ありますので、適用に際してはご留意ください。また、注意点として、この制度の適用を受ける場合には、あらかじめ(事業年度開始後2か月以内に)ローワークへ雇用促進計画という書類を提出しておく必要があります。事業年度が終了して雇用者数が増加しており適用要件を満たすこととなっていても、雇用促進計画を事前に提出していなければ税額控除を受けることができません。従業員の採用をご検討の場合には、事前に雇用促進計画の提出をお勧めします。

なお、先日発表されました平成25年度税制改正大綱では、前述の雇用促進税制の税額控除額を増加雇用者数1人あたり20万円から40万円に引き上げることが検討されております。さらに雇用者数の増加がなくても、給与支給額が一定割合以上増加した場合には増加額の10%を税額控除することができる「所得拡大促進税制」の創設が検討されております。両制度は選択適用となっておりますが、これらの制度をうまく活用しながら、中長期的に人員計画を策定・実行するとよいのではないでしょうか。

つぎに、今回のようなケースで女性社員が退職に至った場合、就業規則等に従って退職金を支給するだけでなく、場合によっては退職させられた女性社員が精神的苦痛を受けたとして会社へ慰謝料を請求することも考えられます。

退職金については、不相当に高額な退職金でなければ、支払額について税務上損金に計上することができます。会計上は、支払った際に退職金勘定で費用として計上することが多いのですが、勤続年数の長い従業員が退職する際には、多額の退職金という費用が発生してしまいますので、当期の損益が悪化するうえ、資金的にも臨時の支出になり会社の資金繰りを一時的に圧迫することがあります。対応策としては、本稿の第131回にあるように、中小企業退職金共済等の外部積立制度を活用し毎月拠出することで、損益および資金負担の平準化を図ることができます。

また、L社の従業員は40代以上が6割を超えるとのことですので、年齢とともに賃金水準が上昇する一般的な賃金体系を前提とすると、L社の損益構造としては人件費負担が大きいものになっているかと思われます。日本政策金融公庫が実施している中小企業の経営等に関する調査結果の中で業種別経営指標が公表されておりますが、精密機械器具製造業の人件費対売上高比率の平均は42.7%、従業員1人当たり年間売上高は11,443千円となっております。これが、黒字かつ自己資本プラスの企業となりますと、人件費対売上高比率は34.4%、従業員1人当たり年間売上高は14,579千円となっております。これらの経営指標から、好業績の会社ほど、人件費負担は軽く、生産性は高くなっており、人材をうまく活用していることがわかります。公表されている経営指標はあくまで対象となった母集団の平均値であり目安でしかありませんが、これらの指標と比較して自社の財務数値を相対的に把握することは、今後取り組むべき財務的課題を明確にすることができますので、うまく活用いただくとよいでしょう。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRネット北海道 会長 安藤 壽建  /  本文執筆者 弁護士 淺野 高宏、社会保険労務士 岡本 洋人、税理士 中村 圭佐



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