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第130回 (平成24年11月号)

SNSの普及!
会社はどこまで規制できるのか?

SRネット福岡(会長:内野 俊洋)

相談内容

最近の若手社員の言動を聞くと、何だか癇に障ることが多くなったG社の社長は、幹部社員に対し「もっと緊張感がある中で仕事をしないと、不良品が多くなったり、事故が発生する危険が高くなる。」と毎日のように檄を飛ばしているようです。しかし、なかなか全社員には浸透せず、「最近の若い奴は…」とイライラする毎日が続いています。

そのような中で、入社2年目の社員が会社内の出来事や、上司の言動を批判めいた記事にして、自身のブログに掲載していることがわかりました。登場人物の氏名はイニシャルにしていますが、社内あるいは取引先の方が見れば、誰のことであるかがすぐにわかる内容です。社長はその社員を呼び出し、厳重に注意するとともに、ブログの掲載をやめるように申し渡しましたが、「これは自分の日記ですから、会社が干渉することではないと思います。」と悪びれた様子もみせません。驚いた社長は「だったら会社のことは書くな」と言っても、「社内は誰も相談にのってくれませんし、ブログですとみんなから意見がもらえて、私も気が軽くなります。自分だけで悩んでいると病気になりますよ」という始末だそうです。そう言われると、確かに個人的なことだし、あまり文句も言えないという気がする社長でしたが、やはり社内の体制や製造工程、上司の人物像が概要でもわかるような文章は、機密漏えいに該当するのではないか、また、不特定多数の人に公開することも疑問だということです。

企業として、ブログなどのSNSの使用規制方法と範囲、また、規制から逸脱した場合の対応方法についてアドバイスをお願いします。

相談事業所 組合員企業Gの概要

創業
1982年

社員数
正規 151名 非正規 23名

業種
精密部品製造業

経営者像

G社の社長は62才、先代の後を継いで15年になります。社員も順調に世代交代し、20代から40代の社員が過半数を占めるようになりました。しかし、古い社員が減少した影響からか、職場の規律や言動などがルーズになりつつあり、会社への忠誠心が薄らいでいることを危惧しています。


トラブル発生の背景

SNSの爆発的な普及は、その利用者を増大させ、個人情報を含む社内情報の漏えいに対する管理が追い付かないような状況となっています。
たまたま見つかったから対応するのか、企業として何らかの管理体制が必要なのか、あるいは社員のモラルの問題なのか、問題が大きくなる前に、あらかじめ対応策を講じた方がよい案件かもしれません。

ポイント

人間関係が希薄となりつつある現代の企業組織において、“相談の場”をどのように形成するのか、というのも隠れた問題だと思います。
たとえば、機密漏えいに関し、内部告発制度を利用した場合に、“密告”的なものが横行し、社員間の人間関係がおかしくなることはないのか、など、その管理・運用のポイントなどは、経験豊富な専門家からアドバイスをもらうことが最適です。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:八尋 光良)

SNSとは、「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」の略で、インターネットの利用者が、ネット上で交流するサービスのことです。ブログの短縮版で140文字以内という制限のあるツイッターも広義ではこのSNSに該当するものとされます。

さて、会社が従業員のSNS利用行為を規制し得る根拠としては、会社が企業秩序を定立し維持する権限を有することが挙げられます。最高裁判所も、企業は「企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもって一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為が有った場合には、その内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができる」また、「(同規則又は具体的指示・命令)に違反する・・場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、・・規則の定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができる」としています。従業員は会社と締結する労働契約上、当然に企業秩序を遵守する義務を負うことになります。

しかし、この企業秩序及び労働契約は従業員の私生活に対する会社の支配までを正当化するものではないため、従業員の私生活上の行為は実質的に見て企業秩序に関連性のある限度においてのみその規制の対象とすることが可能となります。したがって、従業員のSNS利用も、この企業秩序に関連性があるか否かという視点で会社が規制を及ぼすことができるかどうかが決せられることになります。

まず、就業時間中は従業員に職務専念義務がありますから、就業時間中のSNS利用、会社のパソコン等を用いてのSNS利用を就業規則で禁じることができます。ただし、これらの禁止規定の違反を理由に、従業員に懲戒処分を科そうとする場合には、その違反の程度(例えば違反した時間の長さや過去の処分歴の有無等)に応じた相当なものに留める必要がありますので、注意が必要です。

一方、私生活上のSNS利用については、私生活上の非行について会社が懲戒権を行使できるのかが問題となった最高裁判例に照らし、原則として会社の規制を及ぼすことができず、例外的に会社の事業活動に直接関連を有するもの、または、会社の社会的評価の毀損をもたらすもののみが懲戒の対象となり得ると考えるべきです。たとえば、会社が守秘義務を負っている事項(他社との共同開発契約上の秘密や業務上取得した個人情報等)を従業員がSNSで公開したような場合は、会社の事業活動に直接関連を有するといえるでしょうし、自社の従業員であるとわかる状態で他者の名誉棄損を行うとか、わいせつな表現を行う、あるいは虚偽であっても犯罪行為を喧伝するなどしたような場合には、会社の社会的評価の毀損をもたらすといえるので、それぞれ該当箇所のSNSからの削除(ブログ全体の閉鎖は、問題となる部分以外の部分の閉鎖も命じるもので、業務命令権の範囲を逸脱したものであるとして無効という裁判例(東京地方裁判所平成14年3月25日判決)を命じたり、懲戒処分を行うことができると考えられます。会社としては包括的に規制を及ぼしたいところですが、従業員の私的なSNS利用については、会社の事業活動に直接関連を有するもの、または、会社の社会的評価の毀損をもたらすものであるかを厳格に判断して対処していくほかないと考えられます。

最後に、従業員の私的生活上のSNS利用を会社が監視することは、プライバシー保護の観点から好ましいことではありません。SNSの普及に伴い、「ソーハラ」(ソーシャル・ハラスメントの略と思われます。)という言葉が生まれているとの新聞報道もあります。たとえば、従業員のSNS利用を届出制にすることは、会社による行き過ぎた私的生活への干渉であり違法であるとの評価を受ける恐れがありますので、十分に注意してください。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:安藤 政明)

SNSの普及は、様々な問題を生じる懸念があり、情報の内容によっては、会社にとって好ましくない場合や、さらには、会社が損害を被る可能性もあるでしょう。

法律上の考え方については、弁護士からのアドバイスをご確認いただき、ここでは、主に日頃の対策と運用について検討したいと思います。

まず、会社として従業員のSNS使用について、どのような方針をとるのかを明確にすることから始めます。具体的には、?SNSの社内利用禁止、?SNS使用における掲載事項の制限の有無、?問題が生じたときの対応方法、等についての方針を検討・実施という流れです。

まず?については、弁護士の説明の通り、休憩時間中や終業後等であっても、会社のパソコン等を利用したSNS利用を禁止できます。パソコンの私的利用は、場合によっては情報流出やウイルス感染の可能性も考えられます。単にSNSだけを禁止するだけでなく、会社のパソコンは業務使用に限定しておくべきでしょう。ただし、事業のために積極的にSNSを活用している場合は、SNSの業務使用と私的使用の定義を明確にして、私的使用について制限することが必要になります。

?については、機密情報漏洩や会社の信用の問題から、会社の方針を明確にしたいところですが、一律に決めるのも難しい面があります。たとえば、社名の掲載を一切禁止しようとしても、事実上難しいでしょう。したがって、制限するのであれば、業務に関する事項、業務を通じて知り得た事項について、その記載の制限を検討することになります。実際に制限事項を設ける際は、具体例を多く準備し、○×をはっきりさせるなど、従業員にとってわかりやすいガイドラインを作成するとよいでしょう。それでも微妙な事案も発生するでしょうから、ガイドラインの随時見直し、改定が必要です。

?については、社内の担当窓口を設けることが重要です。その際、担当窓口に話したことで不利益取扱いをしないこと、話した者の秘密を守ること等の会社の遵守事項を明示し、気軽に情報提供ができる環境を整備したいところです。

問題が生じたときには、そのSNSを確認し、すぐにプリントアウトしておくことをお勧めします。そうしないと、削除されてわからなくなる可能性があるからです。その上で、内容によっては、懲戒処分検討などの適切な対応を行います。また、処分だけでなく、ガイドラインの見直し、啓発のための学習会開催等、再発防止措置を講じることを忘れないようにしておきたいところです。

いずれにいたしましても、方針を明確に定めたら、その運用のためのルールが必要です。即ち、就業規則に定めをおくことです。就業規則には最低限の定めをおいた上で、「別途『SNS利用ガイドライン』の定めに従う。」等の規定方法でも構いません。就業規則に定めがなければ、事案によっては懲戒もできないこととなる可能性が考えられます。

以上の通り、SNS利用は全面規制ができないため、会社に影響がある事項について合理的な範囲で規制し、問題が生じたときの担当窓口をおくとともに、就業規則に明確な定めをおくことが求められます。

税理士からのアドバイス(執筆:衛藤 政憲)

税務との関係は、具体的な債権債務、費用収益について生じることになります。そこで、SNSに関連した不祥事に関して発生が想定される費用等について、税務上の取扱いを確認することとします。

カウンセラーの導入によるメンタルヘルス対策に係る費用
上司の批判や仕事上の不平不満を記載した日記をブログへ掲載するというのは、そのことによってストレスの解消を図っているものと思われますので、労働安全衛生法に基づく産業医とは別に、メンタルヘルス対策として、新たに専門のカウンセラーを導入し、定期的に社内における相談の場を設けるようにすることが考えられます。

カウンセラーとの委任契約に基づく報酬支払に当たっては、所得税を源泉徴収する必要はなく、その対価の額は、法人税における損金となり、消費税の課税仕入れとなります。

不法行為による法人被害に係る損害賠償請求権の取得
ブログへの掲載等を通じて個人情報、顧客情報、企業秘密等が漏洩した場合、法人の社会的信用が失墜し、計り知れない損害が生じることが考えられます。

このような場合には、加害者を特定し、懲戒処分、刑事告訴するとともに、具体的な損害額を算定して不法行為による法人の被害について損害賠償請求をすることになると思われますが、その損害額が算定された時点において、法人税法上損害賠償請求権を取得したものとしてその損害額を損金の額に算入(借方:雑損失/貸方:仮払金)するとともに損害賠償請求権を益金の額に算入する(借方:損害賠償請求権/貸方:雑収入)両建経理処理を行う必要があります。この通達にいう「他の者」に該当しない役員や使用人から支払を受ける損害賠償金については、損害賠償請求権を取得した時に益金の額に算入します。また、この益金の額に算入した損害賠償請求権は、その全額が回収できないことが明らかとなった時点において貸倒損失として損金の額に算します(借方:貸倒損失/借方:損害賠償請求権:法人税基本通達9?6?2)。

責任追及としての役員給与の減額改定の実施
不祥事が生じた場合には、企業慣行として役員の管理・監督責任追及のため、一定の期間役員給与を減額し、その期間経過後元の金額に戻すということが行われます。

このような役員給与の減額改定をした場合の取扱いについては、定期同額給与における役員の職制上の地位の変更等の臨時改定事由によるものとされていますので(法人税基本通達9?2?12の3)、法人税法上問題とされることはありません。

法人による役員又は使用人の損害賠償金の支出
役員または、使用人がした行為等によって他人に与えた損害に係る損害賠償金をその法人が支出した場合で、その行為等が次のものである場合には、その支出した損害賠償金に相当する金額はその行為等をした役員または使用人に対する債権とされます(法人税基本通達9?7?16(2))。
? その行為等が法人の業務の遂行に関連するものではあるが、役員又は使用人の故意又は重過失に基づくものである場合
? その行為等が法人の業務に関連しないものである場合

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRネット福岡 会長 内野 俊洋  /  本文執筆者 弁護士 八尋 光良、社会保険労務士 安藤 政明、税理士 衛藤 政憲



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