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第122回 (平成24年3月号)

メールだったら何でもあり?
「私は大事なことを伝えたいだけです…」?!

SRネット北海道(会長:安藤 壽建)

相談内容

K社の組織は、社員が営業、パートが商品管理というように区分けされています。当然のことながら、営業と商品管理の間で、情報共有や指示・報告が完全にできていないと、これが直ちに“顧客クレーム”の原因となります。

「俺が指示したメーカーのスピーカーじゃない!」「在庫がなかったから、仕方ないではないですか…」「それなら、先にお客様に了解を得ないとならないだろう!」K社の倉庫で、F社員とパートのU子がやりあっています。他の社員たちは、「またか…」という様子で知らぬふり状態です。F社員から相談を受けたM専務は、「彼女は気が強く、自分が一番正しい、というところがあるからね、確かに責任感はあるのだが、そうたびたび衝突していては、君もやりにくいだろう…」と全面的にF社員の意見を聞き入れ、2ヶ月先の契約期間満了日をもって、U子との雇用契約を解消する旨を通知しました。驚いたのはU子です。

これまで6年以上も勤務しているのに、「今回で契約終了」の一言には激怒しました。それからというもの、F社員の日頃の言動がパワハラだの、不当な雇止めだの、ありとあらゆる自分の不満をパート含めた全社員にメール送信するようになりました。U子が最初のメールを送信した際には、M専務が「私的なメールは慎むように」とやんわりと注意しましたが、U子は「これは私的なものではありません。パート全員が感じていることを報告しているのです」と聞く耳を持ちません。「報告ならグループ長に言いなさい、許可もなく、社長にまでメールを送るのは専断的な行為であり、自分の立場を理解していない、ということではないのか…」再度、M専務がたしなめると、「メールもだめ…これはイジメですね…」泣きながらU子はその場を立ち去りました。15分もしないうちに、“専務のイジメ”というテーマでU子からのメールが送信されました。

相談事業所 組合員企業K社の概要

創業
平成元年

社員数
15名 パートタイマー10名

業種
物品レンタル業

経営者像

E社長は働き盛りの46歳、ホームビデオからテントまで、さまざまな物をレンタルするK社を大学卒業間もなく友人(M専務)と立ち上げました。運動会系のノリで、社員たちの信頼が厚く、業績は順調に伸びています。


トラブル発生の背景

電子メールがなくては企業活動ができない時代にあって、その使用方法を教育していないと、とんでもないことになるというケースです。
非常に便利な意思伝達手段である電子メールをどのように管理すべきでしょうか。また、その教育方法・内容についても、企業としてのポリシーが必要だと思います。

経営者の反応

「やれやれ、何をやっているのだか…」M専務から報告を受けるまでもなく、U子からのメールを受け取っているE社長はあきれていました。
「U子については、以前から問題があったわけだし、辞めさせるにしても、もう少しやりようがあっただろう…」とE社長がM専務とF社員に話しています。いずれにしても、U子には雇止めを通知してありますので、今後どうするのか、という点について3人で話し合いました。「U子の行動は、懲戒に該当するのではないでしょうか…」とM専務、「常識的に考えても、全員に私がパワハラしたなどとメールするのは、人権侵害ですよ…」とF社員。
「君たちの言いたいことはわかるが、懲戒だとか、常識的に、といっても、何を根拠にするのかだよ、就業規則にはアバウトなことしか書いていないしな…」1時間が経過しましたが、3人では答えが出ないことがわかってきたようです。「先日の新聞に、SRなんとか…というのがあったような気がする、とにかく相談ということで、そこに連絡してみよう!」というE社長の言葉に、M専務とF社員は、ほっとしました。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:冨岡 公治)

最初にK社とU子との期間雇用契約終了の法的問題点を検討します。

労働基準法第14条第1項は、期間雇用について、3年を超える期間について労働契約を締結してはならないと規定されており、一般的に6ヶ月ないし1年間程度の雇用期間が定められて、それが更新されている事例が多いのが現状です。

本件U子の場合は、6年間という雇用期間からして、何回か更新されていると考えられます。

つぎに、労働基準法14条第2項は、期間の定めのある労働契約の期間満了についての通知に関する事項などについて、厚生労働大臣が基準を定めることが出来るとしています。この規定に基づいて策定されているのが、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」です。この厚労省の基準は次のように規定しています。

【第1条 契約締結時の明示事項等】
使用者は、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)の締結に際し、労働者に対して、当該契約の期間の満了後における当該契約に係る更新の有無を明示しなければならない。
前項の場合において、使用者が当該契約を更新する場合がある旨明示したときは、使用者は、労働者に対して当該契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準を明示しなければならない。

【第2条 雇止めの予告】
使用者は、有期労働契約を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない。
【第3条 雇止め理由の明示】
前条の場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求した時は、遅延なくこれを交付しなければならない。
有期労働契約が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求した時は、遅延なくこれを交付しなければならない。

本件において、K社は2ヶ月先の契約期間満了をもってU子との雇用契約を解消する旨を通知したのですから、上記厚労省通達の第2条の30日の予告の要件は充足しています。しかし、U子が6年以上も勤務しているのに「今回で契約終了」の一言に激怒したというのですから、上記厚労省基準の第3条の雇止めの理由の明示を適切になしていないと考えられます。

また、本件のように何回も雇用期間が更新された期間雇用者の労働期間の終了については、期間の定めのない正社員に準じて保護されるべきであるとして、各種判例は解雇権濫用法理の類推適用がされると判示しています。

各種判例は、以下の???の事情を総合的に検討して、期間雇用者を法的に保護されると解釈しています。
当該雇用の臨時性、常用性
契約更新の回数
雇用の通算期間
契約期間、更新手続等の管理状況
当該雇用における雇用継続の期待を持たせる言動の有無
契約内容の合理性

本件のU子の場合、責任感が強く仕事に熱心という良い面があったが故に雇用期間満了となることが法的に問題なく有効であるとはいえず、雇用権濫用法理が適用され、U子の社員としての法的地位が存すると判断される可能性が大きいと考えられます。

次にU子が全社員に対してF社員の日頃の言動がパワハラであるとか、会社の今回の雇止めは不当な措置であるとしてメール送信した行為の法的問題点を検討します。

社員がインターネット、メール等で会社の批判を行う事は、労働契約上の誠実義務の観点から、また会社を誹謗中傷する者である場合には、会社の社会的信用を害する行為であるとして、懲戒処分の対象となります。また、企業機密を漏えいすることも重大な企業秩序違反行為であり、守秘義務違反として懲戒処分の対象となります。

しかし、社員の内部告発が正当なものである場合は、懲戒処分または、今回のように内部告発を理由とする期間雇用の満了の措置は法的に無効と判断されることとなります。この点について、裁判所の各種判例はこの正当性の要件は次の3つの要素を判断基準としています。
告発内容の正当性
告発周知の公益性
告発手段、様態の社会的相対性

最近では公益通報者保護法の施行で、内部告発に対する評価価値観は大きく変わってきている現状にあります。K社の場合、E社長自身が就業規則にアバウトなことしか書いていないと自認しているのですから、K社においては社内規定において内部告発等に関する社内ルールの規定がなされておらず、全社員に周知徹底も行われていないと考えられます。

電子メールの私的利用の問題点については、職場のパソコンは会社所有であり、当然に業務上使用するものとして社員に与えられているものですので、電子メールの私的利用は当然の事として認められるものではありません。

したがって、会社は社員に対してパソコンないし電子メールの私的利用を社内規定によって禁止することが出来ます。また、社員には職務専念義務という基本的な義務が存在することからして、パソコンないし電子メールを私的に利用することは会社の施設管理権を侵害することとなると解釈されます。

しかし、裁判例等を検討すると、私的な電話ないしメールの利用であっても、日常の社会生活を営む上において、必要かつ合理的な範囲内容のメール利用は、社会通念上許容されると解釈されます。

本件の場合においても、U子の上司であるF社員が社風である運動会系のノリの態度で日常的にパワハラ行為をなしていると判断される場合は、U子の今回の全社員に対するメール送信は、社会的に相当な行為であると考えられる可能性があります。

U子はメール使用を注意すると「これはイジメですね」として泣いていたようですが、本件の場合、女性の側からパワハラによるイジメ行為が存したか否かという問題点も存すると考えます。

以上の検討結果から、弁護士の立場からすると、K社のU子に対する雇止めは解雇権の濫用の類推適用により無効であり、また、U子のメール送信とF社員に対する攻撃も社会的に相当な範囲内であるとして解釈され(特に女性の場合、裁判所も同情的に考えられる傾向にあります)、懲戒権の行使をすると法的に無効であると解される可能性が強いと考えられます。

結論として、体育会系のノリも良いのですが、女性労働者と期間雇用者に対する取り扱いは十分にデリカシーに注意をしてなさなければならないということとなります。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:安藤 壽建)

業務における電子メールの使用は必須のものとなっています。しかし、本件のように私的利用する場合も多数見受けられます。さらに、U子のように自分の不満をパート含めた全社員にメール送信することとなると、会社内の社員のモラール低下など弊害も発生しますので、私的利用を禁止することが必要になります。

そのための対応として、業務における電子メール利用のルール作り、違反した場合の措置、違反者のアドレス抹消措置等の制度づくりが必要となります。

【会社の所有する電子機器での「電子メール使用管理規程」(ルール)の作成】
電子メールのやり取りが業務上の使用目的であるにもかかわらず、業務中に業務外の利用(私的)が横行すると、コンピュータウィルス対策、機密や個人情報の漏洩などの問題発生が予測されます。そこで、社内で利用する電子メールには、主として次のような項目についての規制が必要です。

社員全員を適用範囲とすること ?業務利用の原則の明記 ?禁止項目の列記 ?使用するコンピュータの特定 ?電子メール利用状況のチェック ?ウィルス対策 ?文字やメール形式 ?管理者 ?著作権への配慮 ?罰則

電子メールの管理方法は、「電子メール利用規程」を作成しただけではなく、社員として守るべきことや社会人としての自覚と責任を持つことを促進させることが必要です。

そこで、これを促進する方法としては、電子メール利用についての社員教育・研修会等を通じて理解を深めることが挙げられます。その際の重点項目としては、電子メールの業務利用の原則や基本的なルール、情報漏洩の防止、業務中の私的利用の禁止、ウィルス感染防止、罰則等です。

電子メールの業務上利用の原則や基本的なルールを全社員に説明し、理解が深まれば、次のようなことも意識できるようになります。

社会的責任等
電子メールを利用して情報を受信したり発信したときには、それによって生じるリスクや社会的責任、法的責任を負うことを常に留意すること。また、不用意な行為は社員自身だけでなく、会社にも被害や損害を与え、名誉を著しく傷つけたりすることがあること。

社内情報システムの利用にあたっての責任
社内情報システム(電子メールやインターネット接続含む)は会社の重要な財産であること。社内情報システムを利用する社員は、業務の遂行を目的として、高い職業意識をもち倫理にかなった方法で利用する責任があること。

ユーザIDとパスワード
社員自身がユーザIDやパスワードは正当な利用者であることを証明する情報であり、社員自身が適正に管理することによってセキュリティ確保の基礎となること。

公序良俗に反すること、他者の権利侵害
電子メールでの情報を発信・公開する際は、公序良俗に反し、他者の権利を侵害することのないよう、会社の信用・品位を傷つけないように注意しなければならないこと。

電子メール利用にあたっての禁止項目としては、社内外によらず、アクセスすることを許可していないコンピュータシステム内に侵入することや、データの閲覧改ざん行為が禁止されているもの、その他禁止事項について、社員に十分説明することが重要です。

私的な利用
業務と無関係な私的な利用、ゲーム、チャットなどの行為については禁止すること。
業務に直接関係のないホームページの閲覧又は書き込みや特定個人又は団体を誹謗中傷する情報を送信してはならないこと。
私的な商用その他の営利活動をしてはならないこと。
他人のパスワードの盗用や偽造、大量の電子メールを送信することを禁止。

電子メール利用状況のチェックとフィルタリングもチェックポイントです。

電子メールは業務上の利用を基本としています。しかし、私的電子メールの発信は厳に慎むことですが、ついつい便利なものですから、密かに私的目的の使用が行われることがあります。よって、電子メール利用状況のチェックや必要に応じてフィルタリングを行うことを事前に説明し、社員の理解を深めます。この場合の留意的としては、規程への明記を行うこと、および全社員への周知徹底です。

ウィルス感染防止対策については、全社で取り組むことが必要です。その防止例の基本について説明します。

見知らぬ相手先から届いた添付ファイル付きのメールを開かないこと
ウィルスチェックプログラムの利用
ウィルスチェック後のダウンロードを徹底
被害に備えるためのデータバックアップの実行
罰則の理解については、電子メール規程に罰則・懲戒条項の記載とともに、社員への周知徹底を行いましょう。

社員は、会社との労働契約に基づいて誠実に労働すべき義務を負います。つまり、労働義務を負う勤務時間中には、社員は会社の指示に従い誠実に業務を行うことに専念しなければなりません。したがって、勤務時間中に命じられた業務に関係のない私的電子メールを送信してはならないことは当然のこととなります。このことを完全に社員に理解させるためには、「電子メール管理規程」を早急に作成し、運用することです。

税理士からのアドバイス(執筆:中川 智)

税理士の立場からは、今回の労使トラブルの発端となった「顧客クレーム」に着目し、損害賠償金の取り扱いについて、税務上の問題点を整理します。 法人の役員や使用人がした行為等によって他人に与えた損害につき、法人がその損害賠償金を支出した場合は、その原因により次の通り取り扱われます。

 

原  因 支出した損害賠償金の取り扱い
損害賠償金の対象となった行為等が法人の業務の遂行に関連するものであり、かつ、故意又は重過失に基づかないものである場合 給与以外の損金の額に算入します。
すなわち、役員又は使用人に対する給与とはしない取り扱いになっています。
上記のいずれかの条件に適合しない場合(法人の業務の遂行に関連するものであるが故意又は重過失に基づくものである場合又は法人の業務の遂行に関連しないものである場合) 役員又は使用人に対する債権(貸付金)とします。
(法基通9?7?16)

 

 

上記により計上された債権については、その全部又は一部に相当する金額を貸倒れとして損金経理をした場合、または損害賠償金相当額を債権として計上しないで損金の額に算入した場合には、本人の資力に基づいて次の通り取り扱われます。

 

役員又は使用人の支払能力等 損金経理した金額の取り扱い
求償できない事情にある金額 貸倒れとして損金の額に算入します。
回収が確実であると認められる部分の金額 役員又は使用人に対する給与とします。
なお、役員に対する給与は定期同額のもの以外は原則賞与として取り扱われ、損金の額に算入されないことになります。
(法基通9?7?17)

 

 

つぎに、逆に、法人が損害賠償金を受け取った場合の収益計上時期の留意点です。

法人が、他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含みます。)の額は、その支払を受けることが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのが原則ですが、実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入することも認められます。(法基通2?1?43)

すなわち、損害賠償金の収益計上時期については、法人が他の者の行為によって損害を受けた時点で自動的に民事上の損害賠償請求権を取得するので、その損害に係る損失の計上と同時期に損害賠償請求権を収益計上するというような硬直的な考え方を取っていません。当事者間に損害賠償責任があるかどうかの争いが多く、また、具体的な金額は、当事者の合意、または裁判の結果が出るまでは確定しないという現実に即して、損失の計上時期とは切り離し、支払を受けることが確定した時点の収益とするのを原則としています。さらに、損害賠償金の金額が確定したとしても現実に給付を受けることができるかどうかはなお不明であることから、実際に支払を受けた時点で収益計上することまで例外的に認めるという弾力的な運用がなされています。

したがって、損害賠償金の請求の基因となった損失は、損害賠償金収入との対応関係を考えずに、その損害の発生した日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。ただし、保険金、または共済金により補てんされる部分の金額については、保険金収入との対応関係が求められ、費用と収益をセットで計上する必要があります。

最後に、損害賠償金の消費税法上の取り扱いと留意点について触れておきます。

心身または資産につき加えられた損害の発生に伴って受ける損害賠償金については、対価性がないため課税対象外取引に該当し、消費税が課されません。

しかし、その損害賠償金に対価性があるかどうかは、その名称によって判定するのではなく、その実質によって判定すべきものとされており、次のような損害賠償金は、その実質からみて資産の譲渡又は貸付けの対価として消費税課税の対象となります。(消基通5?2?5)

?損害を受けた製品が加害者に対して引き渡される場合において、その資産がそのまま、または軽微な修理を加えることによって使用することができるときに、その資産の所有者が収受する損害賠償金
?特許権や商標権などの無体財産権の侵害を受けた場合に、権利者が収受する損害賠償金
?事務所の明渡しが遅れた場合に賃貸人が収受する損害賠償金

なお、この場合の損害賠償金額のうち消費税の課税対象となる金額は、その損害賠償金の算定方法等を総合勘案して決定されることになります。

コンプライアンス重視が求められる昨今、使用者責任を問われる企業が増えていくことが予想されます。損害賠償を予防する取り組みが何より大切ですが、起きてしまった損害に慌てずに対応していただくため、本記述を参考にしていただきたいと考えております。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRネット北海道 会長 安藤 壽建  /  本文執筆者 弁護士 冨岡 公治、社会保険労務士 安藤 壽建、税理士 中川 智



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