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第195回(平成30年4月号) SR東京会

「体調が悪いので休みたい」「有給休暇として欲しい」
「前の会社では認められた! 当然の権利だ!」「事前申請がないので認められない」

SRネット東京(会長:小泉 正典)

S協同組合への相談

インターネット販売の他に実店舗を3店舗経営しているL社。社長やバイヤーが買い付けた既製品以外にも、無名の作家からL社が育てた作家のハンドメイド作品を多く扱い、また、保育園や幼稚園での手縫い指定品の受付もしており、ママ達に重宝されています。

Tさんは接客業経験があるということで、実店舗社員として中途採用されました。実店舗勤務社員はシフト制としており、急な休みの場合の対応が難しいため、有給休暇は3日前までに申請するように就業規則に定めており、入社時にもTさんに説明をしました。もちろん急な体調不良時には休んでもらっていますが、他の社員等へシワ寄せがいくので、当日の休みは欠勤として処理していました。
ところが、ある朝Tさんから「体調不良のため休みたい。有給休暇として欲しい」と電話が入りました。休みは承認するが、有給休暇は認められないと返答したところ、「前の会社でそんなことは言われたことがない! 有給休暇は社員の権利のはず! 好きなときに当然使えるはずだ!」と怒り出し、結局その日から5日も出勤してきませんでした。本人はそのすべてを有給休暇にしろと要求してきています。総務担当から相談を受けた社長は困り果て、S協同組合へ相談をしました。

相談を受けた事務局担当者は専門的な相談内容について連携している地元のSR アップ21を紹介することにしました。

相談事業所 組合企業L社の概要

創業
1997年

社員数
:正規15名 非正規30名

業種
卸・小売業

経営者像

インターネットの無店舗から社長一人でハンドメイド作品を出品し、現在は県内に3店舗を構えている。主婦作家のハンドメイド作品も多く扱い、子どもが手を離れた主婦作家は、希望があれば社員化しているため、女性社員が多い。
社長も顧客の現在のニーズを把握したいと、時々店舗に立っている。


トラブル発生の背景

社員からの当日欠勤についての有給休暇申請問題です。L社の就業規則には3日前の申請と明記してあり、入社時にも説明をしていますが、本人は、有給休暇は社員の権利で、いつでも使用できるはずだと主張しています。

ポイント

有給休暇はどのような権利で、いつ使用することができるのでしょうか?

Tさんの主張のとおり、本人から申請があった場合はすべて認めなくてはならないのでしょうか? それとも、今までのL社のルール通り、当日申請は却下し、欠勤処理をしても問題はないでしょうか?

Tさんへの対応はどのようにしたらよいのか、また、今後の注意点などL社の社長へよきアドバイスをお願いします。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:麻布 秀行)

1 年次有給休暇について
年次有給休暇(以下「有休」という)については、労働基準法(以下「労基法」という)第39条に定められています。労働者が同条の要件(雇入日から起算して6カ月間継続勤務したことや全労働日の8割以上出勤したこと)を満たしている限り、労働者から具体的な休暇の始期と終期を特定して時季を指定したときは、使用者が適法な時季変更権を行使しない限り、使用者の承認の有無にかかわらず有休が成立すると解されています(最高裁第2小法廷昭和48年3月2日判決)。

 
2 時季変更権について
ここで、時季変更権という言葉が出てきましたので、その内容について確認しておきましょう。労基法第39条第5項によれば、原則として労働者の請求する時季に有休を与えなければならないが、それが「事業の正常な運営を妨げる場合には」会社は他の時季にそれを変更することができるとされています。裁判例は、事業の正常な運営を妨げるかどうかはその労働者の所属する事業場を基準として、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行など諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきとしています(大阪高裁昭和53年1月31日判決)。したがって、使用者が、この適法な時季変更権を行使しない限り、労働者の指定した時季に有休が成立することになるのです。

 
3  有休の申請時期を制限する就業規則の有効性
ただ、使用者にしても、この時季変更権を行使するかどうかを判断するための時間は必要です。そうなると、本件のように当日いきなり有休を利用すると主張されても対応に苦慮することになります。したがって、時季変更権を行使するかどうかを判断するために、3日前までに申請することを求める就業規則は有効なのかという疑問が生じます。この点、業態は本件案件と異なりますが、代替人員確保が必要となることなどをとらえて3日前までに書面で申請することを就業規則に定めることに合理性が認められると判断した裁判例があります(大阪地裁平成12年9月1日判決)。ただし、注意が必要なのは、いかなる場合でも合理性が認められるわけではありませんので、先に述べた考慮要素(代行者の配置の難易等)をもとに合理性があるかどうかを判断することになります。

 
4 本件について
本件事案において、Tさんは、就業規則の規定に反し、当日に有休の取得を申請しています。
この点、L社は実店舗3店舗に対し、正規15名、非正規30名の従業員が雇用されていることから、店舗間の従業員を融通しあえる可能性があることや社長自ら店舗に立つことがあるようですので社長自ら対応可能であること等をとらえ、本件就業規則の合理性が否定される可能性はあります。

しかし、L社の実店舗の勤務社員はシフト制とされており、急な休みの場合の対応が難しいとのことですので、上記合理性を否定する事情を考慮してもなお、事業の正常な運営を妨げるような事情が認められた場合には、3日前までに申請するよう求める就業規則の規定は合理的と判断されるものと思われます。その場合には、Tさんからの申請に対し、L社が時季変更権を行使し、有休を承認しなかったこ
とは許されるものと思われます。
なお、今後、就業規則等の定めに反して直前に有休休暇の申請がなされた場合には、できるだけ有休を取得できるように配慮すべきです。ただし、人員確保等が困難であり、事業の正常な運営を妨げるような場合には、速やかに時季変更権を行使し、有休の申請を承認しない旨の意思を表示すべきと考えます。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:小泉 正典)

有休は、法定休日のほかに、一定の要件を満たした場合に与えられます。有休が与えられる要件としては、弁護士の解説にもありますが、①雇入れの日から起算して6カ月間継続して勤務していること、②その6カ月間の全労働日の8割以上出勤していることとなっており、労働者に心身の疲労を回復させることを目的としています。なお、正社員でなくても、パート・アルバイト等であっても、要件を満たせば有休は付与対象となります(所持労働日数が少ない場合は、所定労働日数に比例した日数が付与となります)。有休中は通常の賃金を支払い、病気の場合はOK、遊びに行くのはNG といったように、休暇の使い道を指定することはできませんので、社員から「使用したい」という申請があった場合は、原則拒むことはできません。

ただし、就業規則等で有休休暇を申請する場合は、L社のように「◯日前までに」と定めてあることが一般的です。当日の申請だと、当日の仕事の調整や、代替要員の手配ができなくなるなど、事業の正常な運営を妨げることになる場合があるからです。この場合は、その日ではなく、違う日に有休を取得させることになります。これを使用者の「時季変更権」といいます(労基法第39条第4項)。有休を取得させないのではなく、当日ではなく、別の日にしてもらうということです。きちんと就業規則に定めが有り、周知されていれば当日の有休申請は認められないということになります。労働局の有休についてのパンフレット等にも「有休は『会社(使用者)の承認によって与えられる』という性格のものではなく、従業員が取得したい日を前日までに指定すれば、無条件に与えられるものです」という説明があります。ポイントは「前日までに指定すれば」という部分です。労働日とは、原則として暦日計算によるべきもの(昭和26. 9.26基収 第3964号 昭和63. 3.14基発 第150号)となっており、つまり、労働日は午前0時から開始しているため、始業前の当日の朝の電話であっても、事後申請となるわけです。始業時刻20分前に行われた有休の申請に対して、始業時刻後に会社が時期変更権を行使することの是非について争われた事件の判決でも、会社側の主張を認め、労働者側が敗訴しています(此花電報電話局事件 昭57. 3.18)。もちろん、事業の正常な運営を妨げる場合に該当しない場合には、有休を取得させないことは不当であると判断される可能性はありますので、ご注意ください。
また、Tさんの前職場のように、急な事故や病気、子どもや親の看病など、本人も意図しない突発的な事情も考えられるため、当日であったとしても後日速やかに申請すれば承認するというところも多くあります。この場合は、会社が「原則○日前申請ですが、事情がある場合には当日でもOKです」としているため当日有休申請が認められているだけですので、すべての会社がそのようにしなければならないということはありません。
ご質問については、有休として認める必要はありませんので、申請された有休については別の日に取得してもらうこととし、休んだ分は欠勤として取り扱って問題ありません。また、別の日に取得となる有休取得についても、電話連絡をしてきた1日のみでよいかと思います。その後の5日については、連絡もなく(有休申請もなく)休んでいるようですので、当然に欠勤処理になります。Tさんには今一度会社のルー
ルについてご説明されたほうがよいでしょう。

税理士からのアドバイス(執筆:上田 智雄)

このトラブルについて、有休を認めるかどうか決定するまでの給与計算についてみていきたいと思います。欠勤処理をした後に有休申請が認められ追加で賃金を支払うなど、給与変更が過去にさかのぼって行われ、その変更部分の給与がまとめて支払われる場合の所得税などの税務上の処理は次のようになります。

 
1.給与の収入すべき時期
給与の過去にさかのぼって実施された場合には、変更前の給与と変更後の給与とに差額が生じます。この差額を一括して支給する場合の給与の収入すべき時期は、変更を取り決めた労働協約等において支給日が定められているものについてはその支給日、その日が定められていないものについてはその労働協約等の効力が生じた日となります。

 
2.源泉徴収額の計算方法
この場合の源泉徴収税額の計算は、定められた支給日または効力が生じた日の属する月に支給する通常の給与と差額分の給与を合計した金額について「給与所得の源泉徴収税額表」を用いて税額を求めます。
なお、この方法によって税額の計算を行うと、源泉徴収税額が多額となることがあります。そのため、数カ月分の差額を一括して一時に支給するような場合には、その差額分を臨時的な給与として、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を用いて計算してもよいことになっています。
また、逆に従業員との話し合いがまとまらず、有休か否かの扱いが確定しないため、ひとまず賃金満額支給をし、その後に欠勤処理とした場合の源泉所得税についても、上記と同様に労働協約等の支給日もしくは効力が生じた日の属する月に支給する給与での調整となります。なお、社員だと、その責任を負ってもらうことに限界があるのであれば、運営責任が明確になる「雇用」ではなく「業務委託」にすると選択肢もあります。税制上のメリットが大きいので、理論上は検討できます。
そのメリットというのは消費税と社会保険の負担軽減です。「雇用」として社員に支払う給与には消費税がかかりませんが、「業務委託」として支払う外注費は消費税が含まれることになります。そのため、「雇用」から「業務委託」に変えることで、その支払いに係る消費税相当額の納税を少なくすることができます。また、社会保険についても、「業務委託」にすれば被保険者とならないため加入義務はなく、負担は生じません。
この「雇用」か「業務委託」との違いについての判断は、次のような基準のほか、契約や業務実態などで客観的に判断されます。
①業務が完遂しなければ報酬が支払われない。
②自己の責任において裁量を持って仕事をしている。
③自ら請負金額を計算し、請求書を発行している。
④自己の計算と危険において、独立して営まれている。
この「雇用」と「業務委託」の違いは総合的に勘案するという曖昧な基準です。よって、その要件を満たしておらず、会社として「業務委託」として処理していたものが、税務調査で「雇用」と認定されてしまう話はよくあります。税務調査で認定された場合には、追加で消費税などの本税のほかに、罰則として加算税や延滞税など、本来払わなくてもよいものまで支払う義務が生じることもあります。要件をしっかり確認のうえ、進めていく必要があります。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRネット東京 会長 小泉 正典  /  本文執筆者 弁護士 麻布 秀行、社会保険労務士 小泉 正典、税理士 上田 智雄



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