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第189回(平成29年10月号) SR鹿児島会

「契約社員を正社員にしてほしくない!」
「ウチの定年は60歳!」

SRネット鹿児島(会長:横山 誠二)

T協同組合への相談

K社は海外製品の輸入卸売業を営んでいます。創業者が各国へ渡航しパイプを作り上げてきたせいか、引退した今もほぼ毎日のように会社にきて、いろいろと指示をするため、2代目社長もなかなか口が出しづらい状況があります。

Tさんは創業者の口利きで中途入社してきました。最初は1年の契約社員ということでしたが、1年経った後も「特に辞める理由がない」ということで再度1年の契約をしています。ところがTさんは外国語は堪能ですが、細かい仕事はやる気がなく、社員もほぼ全員年下のため、仕事を指示しても「それは俺がやることではない」などと言って仕事をしません。Tさんは創業者の知り合いのため、創業者はTさんは仕事がよくできると信じて疑いません。社員達はどうにもしようがなく、社長にTさんについて訴えますが、社長も創業者の口利きで入社した年上のTさんになかなか強く言うことができませんでした。

そんな中、Tさんを正社員にする話が持ち上がりました。これには社員全員大反対!「仕事をしない人にこれ以上居てほしくありません!」「大体ウチの定年は60歳なんです。Tさんはすでに63歳じゃないですか、定年過ぎの人を正社員にするのはオカシイです!」と、社長に詰め寄ります。本音を言えば社長もTさんを社員にしたくはありません。創業者とTさんに仕事ができないから、と言ってしまうより、社員の言うように定年を盾にこの話は断りたいのですが、そういう理由で断ることができるのかわかりません。創業者はTさんの正社員には賛成ですし、もし正社員とならない場合でも退職 金のような慰労金を支払いたいと言っています。相談を受けた事務局担当者は専門的な相談内容について連携している地元のSRアップ21を紹介することにしました。

相談事業所 組合員企業K社の概要

創業
1998年

社員数
正規15名非正規5名

業種
輸入卸売業

経営者像

創業者が3年前に引退し、2代目が引き継いだものの、ほぼ毎日のように創業者が会社にいるため、なかなか自身の思う経営ができないのが悩みのタネ。


トラブル発生の背景

契約社員から正社員への転換についてのトラブルです。

本人は正社員への転換に前向きのようですが、仕事への取組み、成果から社長や社員は正社員にはふさわしくないと考えています。
断る理由として、K社の就業規則の定年を理由としたいと思っていますし、社員の手前、慰労金もできればあまり支払いたくありません。

ポイント

正社員への転換時に、定年以上の年齢を理由に断ることはできるでしょうか? もしできない場合は、仕事への取組みなどを理由にして断第189 回T協同組合への相談することは可能なのでしょうか? K社の就業規則には定年60歳、65歳までは希望者を再雇用する規程があり、正社員転換制度は、社員1名以上の推薦が必要となっています。また契約社員に退職金や慰労金を支払う規程はありません。

Tさんへの対応と、今後の注意点などK社の社長へよきアドバイスをお願いします。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:正込健一朗)

 K社では、創業者が3年前に引退し、2代目が引き継いだとのことですので、事業承継は完了しており、創業者には法律上の支配権・経営権はないものとして以下、本 件について検討します。

 労働法領域における法規範は、上位から順に、①強行法規、②労働協約、③就業規則、④労働契約、⑤任意規定となります。そこで、本件について、上位規範から順に検討することにします。
 まず、契約社員から正社員への転換については、法の定めはありません(ただし、平成24年8月成立の労働契約法改正(平成24年法律第56号)による、いわゆる無期転換制度は除く)。また、本件設例には、K社の労働協約への言及がありませんので、検討から外します。そうすると、本件におけるTさんの正社員転換については、K社の就業規則が参照すべき規範となると考えられます。なお、いわゆる雇止めの事案で正社員転換が関係してくる裁判例はいくつかあるものの、契約社員(=有期労働契約)から正社員(=期限の定めのない労働契約)への転換を正面から問題にした判例は見当たりません。
 K社の就業規則には、60歳定年ただし希望者は65歳まで再雇用という定年制の定めと、社員1名以上の推薦を条件とする正社員転換制度の定めがあり、契約社員に退職金・慰労金を支払う定めはないとのことです。K社の就業規則における、定年制の定めが具体的にどのようなものかはわかりませんが、就業規則の書きぶり及び解釈によっては、定年制を理由に正社員転換を断る余地があります。
 では、定年制を理由に断ることができない場合はどうすればよいでしょうか。K社の就業規則上、正社員転換には、社員1名以上の推薦が必要です。社員全員大反対!という状況ですので、推薦者がいないことを理由に正社員転換を断ることが考えられます。
 では、退職金・慰労金の支払いはどうでしょうか。これについても、就業規則を基準 として考えれば、支出はすべきではないということになろうかと思います。理論的には、就業規則に退職金・慰労金の定めがないことは労働者に請求権がないことを意味するだけで、使用者が任意に支払うことを禁ずるものではありません。しかし、労働条件を公平・統一的に設定するという就業規則の趣旨からすれば、特定労働者を恣意的に優遇することは避けるべきです。
 仮に、定年制の問題をクリアし、社員の推薦も得られてしまい、Tさんの正社員転換を認めざるをえない場合、2代目社長としては、Tさんに対しどのような対策が取れるでしょうか。Tさんは、勤務態度があまりよろしくないとのことですので、程度によっては、懲戒処分の対象になりえます。むろん、いきなり懲戒解雇はできませんが、慎重に懲戒処分を重ねていくことで、Tさんの態度が改まるか、もしくは自主退職の可能性もあります。

 最後に、これまで述べてきたことは、あくまでも法理論上の対応です。現実的には、創業者の意向は無視できないでしょうし、正社員転換後に懲戒処分を重ねてTさんを追い出すことも、余計な紛争を生じさせる危険があります。2代目社長としては、創業者にK社内におけるTさんの評価と自身の経営者としての判断を正直に伝え、創業者からTさんに引導を渡してもらうことを目指すことになるのではないでしょうか。その際、退職金・慰労金についても、K社としては支出できない旨をしっかりと説明することが大切です。ことと次第によっては、創業者が個人的に出捐するという可能性もあるかもしれません。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:横山 誠二)

正社員と契約社員の位置づけ
今回の事例は契約社員から正社員への登用が問題となっています。そもそも正社員と契約社員の違いはどこにあるのでしょうか。正社員とは期間の定めのない労働契約で採用された社員で、一般的には定年まで雇用が確保されている社員を指すものです。一方契約社員は、期限のある雇用契約が締結され、その期限までの雇用であり、更新がなされなければ社員としての身分を失う契約です。

 

定年が根拠になりうるか
社員たちは就業規則の定年が60歳であり、Tさんは63歳だから定年を経過しているので正社員にするのはおかしいとの意見でありますが、この雇用契約はそもそも60歳を超えてからの雇用であったことが推測されます。したがって定年が60歳だからという根拠をもって契約解除できるものではありません。
雇用契約書について
今回の問題は創業者がすでに引退しているにも関わらずTさんは仕事ができると信じており、一方、2代目社長や社員たちは仕事をえり好みして頼んだ仕事をやってくれないことへの不満があるようです。雇用契約の内容が不明ですが、どのような仕事をしてもらう内容だったのでしょうか。雇用契約書に担当する業務内容をしっかり明記しておくことが必要だったと思われます。
高年齢労働者に対する国の施策
さて、少子・高齢化が進み、20年後には65歳以上の労働者が労働力人口の4割になろうかという推計がされており、今後は65歳以上の労働者も雇用していかないと労働者不足に陥ることが予想されます。高齢労働者の活用が企業経営をも左右しかねない状況が迫っていると言っても過言ではないと思います。そのため、国は高年齢者雇用安定法で定年後も65才まで雇用継続することを義務化しました。このような時代背景を考慮すれば、本来Tさんが持てる能力を発揮していたならば、また社員との協調性が円滑にいっていれば今回の問題は発生していなかったと思われます。
今後の対応へのアドバイス

これまでのTさんの仕事ぶりでは社内の結束力は低下し、業績が伸びるどころか、社内の協調性が悪くなり、社員の反発を買うばかりです。社長としては、会社の今後の経営を考えればTさんには退職してもらいたいところでしょうが、一方で引退した創業者の意見も無視できず、対応に苦慮している状況です。今回の事案では、就業規則に正社員登用の際は社員1名以上の推薦が必要である旨の定めがあるようです。社員全員が反対している中で推薦はありえないで しょう。であれば、ここは2代目社長に最高責任者として重大な決断をしてもらわなければなりません。Tさんには現契約の期日までの雇用とし、更新をしない旨予告してもらうことになります。いわゆる雇止めの通知を期限の30日前までに伝達することです。雇用契約書に1年更新と記載してあるからと、事前の予告なく今日までで契約終了という説明ではトラブルが拡大するだけです。同時に創業者に社長から社員の意見を十分に説明しTさんに説得してもらう必要もあります。
創業者は単に知り合いというだけで慰労金を支払いたいと言っているようですが、個人の感情だけで支払いができるものではありません。弁護士のアドバイスにもあるように会社就業規則、賃金規程、退職金規程などにその根拠がなければ認められません。今後このような問題が起きないためにはどのような対策が必要でしょうか。
まずは、会社の就業規則、賃金規程、退職金規程を整備しておかなければ再びこのような事態が発生したときに対処に困ることになるでしょう。

税理士からのアドバイス(執筆:池田 剛)

給与所得か退職所得か
契約期間を満了して退職する契約社員に対して支給させた弔慰金名目の金員は給与所得に該当するのか、退職所得に該当するかが審判所で争われた事例があります(平成23年5月31日裁決)。
支給した会社は「慰労金は、退職に基づき支給されたもので、その所得は給与所得ではなく、退職後の生活の糧となる退職所得に該当する」と主張しました。
それに対して当局側は、①支給した会社は契約社員に対する退職金を支給しないこととしている、②そして、これまでこの会社の慰労金は有給休暇を除く欠勤、遅刻および早退の日数が勤務日数のおおむね10%未満の場合に限り支給され、その支給金額は契約の総期間に応じて支給されている、③労動基準法第24条第2項および同法施工規則第8条には、1カ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される賃金、賞与に準じる支払いは賃金の支払いである旨規定されているところ、今回の慰労金は契約期間の継続勤務に対して支給される勤続手当である、として給与所得と判断しました。

 両者の主張について審判所は「退職所得、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に該当するかを、最高裁第二小法廷判決昭和59年9月9日で示された「退職所得に該当するための3つの要件」を判断の基準としました。その3つの要件とは①退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、②従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること、③一時金として支払われることです。

 本件の慰労金は、契約社員が契約期間を満了して退職するという事実によって支給され、契約社員が契約期間における出勤すべき日数の90%以上を出勤し、勤務成績が良好な者に該当するとして、契約期間における勤務日数に応じて一時に支給されたことからすると、今回の慰労金は上記①ないし③の各要件を満たすものと認められることから、「退職所得」に該当することとなります。
ちなみに、給与所得はその支給総額が課税対象の中心となるのに対して、退職所得は支給総額から勤続年数に応じた退職所得控除額を控除した残額の半分が課税対象となります。

 一般的には給与所得として課税されるよりも、退職所得として課税されるほうが税金は少なくなることとなります。
したがって、今回ご相談のTさんへの慰労金は上記の「退職所得に該当するための3つの要件」を満たすように留意し、退職所得に該当するものとして支給することがポイントだと考えます。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRネット鹿児島 会長 横山 誠二  /  本文執筆者 弁護士 正込健一朗、社会保険労務士 横山 誠二、税理士 池田 剛



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