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第186回(平成29年7月号) SR沖縄会

「解雇予告通知なんて知らない!」「退職しません!」

SRネット沖縄(会長:上原 豊充)

T協同組合への相談

P社は2代目社長に事業継承後も業績を伸ばし、人員も倍以上に増員し、更なる業務拡大を目指しています。1年前に中途採用したSさんですが、事務部門から営業部門へ配置転換した直後から、無断欠勤が目立つようになりました。数日すると出勤してくるので、その都度理由を聞くと、「親が亡くなった」「ペットの具合が悪い」などと言います。親御さんが亡くなった場合は会社から弔電や弔慰金を支給する制度もあるので、届出を出すように言っても持ってきません。とにかく無断欠勤は困るので、休む時には連絡をするように何度も注意をしていましたが、とうとう10日以上の欠勤となり、連絡しても本人から一切連絡がない状態となってしまいました。P社の就業規則では一週間以上の無断欠勤は解雇事由に該当するため、今までの勤怠や今回の連続した無断欠勤から、社長と人事部長で話し合い、Sさんを解雇することと決定し、即日、Sさんの自宅宛に解雇予告通知を送りました。その後も何度もSさんへ連絡をしていましたが折り返しもなく、そのまま解雇日となったので、退職の手続き(退職金の支払いを含む)を行いました。ところが退職日から一週間後、Sさんが突然会社に来ました。驚いた人事部長はとりあえず応接で対応しましたが、Sさんは「仕事をしに出勤した」と言います。解雇通知を出し、解雇した旨を伝えても「知らない」「見ていない」と言うばかり。この間の無断欠勤も「入院していたから」と言うのです。その日は何とか帰ってもらったものの、次の日も次の日も「仕事をしに来た」と会社に来ます。解雇したことを説明してもまったく受け付けず、どのような対応をしたらよいのか社長は困ってしまいました。相談を受けた事務局担当者は専門的な相談内容について連携している地元のSRアップ21を紹介することにしました。

相談事業所 組合員企業P社の概要

創業
1988年

社員数
正規 10名 非正規 4名 

業種
不動産業

経営者像

地元密着型だった先代から、競売専門に切り替え、業績を伸ばしている2代目社長。出張も多く、労務管理は先代からの人事部長に任せている。


トラブル発生の背景

無断欠勤の社員を、解雇予告通知を出して解雇したにもかかわらず、本人が出勤してきてしまうことによるトラブルです。会社としては解雇をした社員が出勤し続けることに困惑しています。

ポイント

P社は、解雇手続きはきちんと段階を踏んで行い、退職金も支払っています。それにもかかわらず、本人は「知らない」と言い張り出勤しようとしています。解雇したとこのまま突っぱねてもよいのでしょうか? もし、解雇できないということになると会社は困ってしまいます。Sさんに対し、どのような対応をすればよいのか、その際の注意点などP社の社長へよきアドバイスをお願いします。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:野崎 聖子)

P社からSさんに発送された解雇予告通知は、民法第97条第1項の「意思表示」に該当し、通知が相手方に到達したときに効力を生じます。Sさんは解雇通知を見ていないと述べているようですが、一般的に、意思表示が「相手方に到達した」とは、相手方の支配圏内に入り、了知可能な状態に置かれたことを意味するという のが判例の考えです。仮に、Sさんが実際に解雇予告通知を見ていなかったとしても、解雇予告通知がSさん宅に配達され、Sさん本人または家族がこれを受領してSさんが解雇予告通知を見られる状況となったのであれば、その時点で解雇予告通知の効力が生じることになります。もっとも、解雇予告通知がSさんに到達したかどうかが争いになった場合は、P社の方で通知がSさん側に到達したことを証明しなければなりません。そのため、一般的に、権利義務に関わる文書等については、文書の内容や相手方への到達を証明しやすくするために、内容証明郵便や配達証明郵便の方法で送付されているのです。ちなみに、会社から解雇の意思表示が発信されたことを電話で聞いて認識していた従業員が、郵便局で会社が内容証明郵便で送付した懲戒解雇通知書の受取拒否の手続を取ったために懲戒解雇通知書が会社に返送されたケースで、懲戒解雇の意思表示が当該従業員に到達していたと判断された裁判例もあります(日経ビーピー事件東京地裁平成14年4月22日判決)。相手方が「了知しうる状態」であったか否かが重要なのです。相談内容からはP社がSさんへ発送した解雇予告通知の具体的な方法が不明ですが、P社が内容証明郵便や配達証明郵便の方法でSさんに解雇予告通知を送付し、その通知の受領を配達証明等で確認できていれば、P社は解雇が有効であることを証明できます。その場合には、P社はSさんに対して解雇予告通知が到達して解雇の効力が生じていることを明確に伝え、Sさんの出勤を禁止することになります。一方で、P社が普通郵便等で解雇予告通知を送付し、配達が確認できない場合には、P社は解雇予告通知の到達を証明できないという問題が生じます。その場合には、出勤してきたSさんに対して、改めて解雇の手続をする必要があります。その場合、再度解雇予告通知の方法でもよいですが、Sさんは1カ月以上も無断欠勤を継続しているようですので、所轄の労働基準監督署長の認定を受けて行う、解雇予告または解雇予告手当の支払いを要しない即時解雇(労働基準法(以下、労基法)第20条第3項)を検討してもよいと考えます。いずれにしても、改めて解雇の手続をするのですから、賃金の精算は必要になります。会社から従業員に対する意思表示の到達の有無が争いになるケースは多いため、会社としては、重要な意思表示は文書で行うこと、当該文書の授受に関する記録をしっかり残すことが大切です。特定の従業員に重要な文書を面前で直接交付する場合には、受領確認の署名等を求めてください。所在不明の従業員に対する解雇通知に関する意思表示の到達の問題を回避するため、就業規則において「2週間以上無断欠勤が続いた場合は当然退職とする」との定めを設けている会社もあります。なお、P社のケースでは、Sさんが無断欠勤を繰り返しても口頭注意だけで済ませていたようですが、無断欠勤の繰り返しを認知した時点で譴責等の軽い処分を行う必要があったともいえるでしょう。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:上原 豊充)

最近では雇用のミスマッチの問題などから、ある日突然、社員が無断欠勤をしたまま、そのまま連絡が取れなくなるケースは少なくありません。特に入社間もない社員に見受けられるようですが、後々大きなトラブルとなることもあるため、勤続年数にかかわらず、会社には適切な対応が求められます。まず、無断欠勤が一定期間続き、本人とまったく連絡がとれない場合、こうしたケースに対する措置としては、就業規則等によって、一定期間の無断欠勤を理由とした自然退職や普通解雇を定めることが一般的です。例えば、就業規則上の退職事由として「無断欠勤を14日継続した場合は、退職の申出があったとみなす」と定めておきます。就業規則で定めた一定期間の無断欠勤を経過した時点で本人から退職の申出があり、会社がそれを認めれば合意による退職として取り扱うことを定めておくのです。また、断続的な無断欠勤に対しては、懲戒事由の条文に「●カ月中、無断欠勤が●日を超えた場合は、懲戒解雇とする」旨を定め、普通解雇事由の項目に「懲戒解雇に相当する行為のあった場合」と規定することもあります。無断欠勤者に対する会社の姿勢をきちんと示す意味でも、就業規則における重要な定めの一つと言えます。ちなみに、労働基準監督署長による解雇予告手当除外の認定基準の一つに、「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」と示されており、このような場合、原則として解雇は有効であるとされています。一方、無断欠勤者については、賃金の支払いや私物の返却に関する対応、また事故や事件に遭遇していないか安否の確認などで問題となることがあります。これらについては、入社時に親族や身元保証人などの緊急連絡先を確認しておくことが有効です。いつ誰が無断欠勤となるかわかりませんので、すべての社員からきちんと確認しておくことが労務管理上重要であるといえます。また、労働契約法第16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とされています。この解雇権濫用法理に照らすと、無断欠勤の理由や原因、程度の如何、業務に与えた影響の有無なども考慮されることから、無断欠勤の場合であっても、ただちに解雇が認められるということではないと考えます。したがって、今回の事案では、まずSさんの発言の(無断欠勤の間は)「入院していた」という事実確認を行うべきでしょう。もちろん、この発言が虚偽ということであれば、これまでの勤務状況や態度、また信義則の観点からも解雇はやむを得ないかもしれませんが、もし入院が事実であって、やむを得ず連絡が取れなかった正当な理由があれば、譴責や減給などの処分に留めておくも考えられます。なお、もし本人に一定の事情や正当な理由があって解雇を取り消す場合、または退職日を変更する場合、社会保険の手続きにおいて資格喪失の取消しまたは訂正手続を行う必要があります。その場合、保険料などの影響から速やかに行う必要がありますが、解雇またはその他処分のいずれにせよ、会社は慎重に対応を検討しなければなりません。これまで「ペットの具合が悪い」、「親が亡くなった」などを理由に無断欠勤を繰り返し、弔慰金を支給するための特別休暇届を出すように言っても持ってこない等の状況を鑑みると、会社に対して不誠実な対応があったことが伺えます。断続的に休みを繰り返すことによって他社員の負担を増やし、会社がそれに対して何も対応せず放置状態にしていれば、真面目に働いている社員の士気が低下することも考えられます。そのようなことから、仮に解雇を取り消すことになった場合でも、何らかの処分は必要であると考えます。

税理士からのアドバイス(執筆:友利 博明)

本案件は、Sさん本人の雇用要件不履行を原因として雇用契約が適法に解消されたのかどうかという判断が基本的に問われます。解雇手続における瑕疵の有無、手続きの有効性の判断は他の専門家に負うこととし、税務上の質問について回答します。

 

(1)退職所得の計算方法
まず、退職金について説明します。税務上「退職所得とは、退職により勤務先から受ける退職手当などの所得」が該当し、社会保険制度などにより受ける一時金、適格退職年金契約に基づいて生命保険会社または信託会社から受ける退職一時金なども退職所得とみなされています。また、労基法第20条(解雇の予告)の規定により支払われる解雇予告手当や賃金の支払の確保等に関する法律第7条の規定により退職した労働者に支払われる未払賃金も退職所得として取り扱われます。ただし、退職所得金額は支給した金額がそのまま課税の対象となるのではなく、以下のような計算に基づき、原則として他の所得と分離して所得税額を計算することになっており、継続支給される給与所得よりも課税の軽減がされています。
(収入金額(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額
ここでいう退職所得控除額は、次のように計算します。
20年以下40万円×A(勤続年数)
(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超800万円+70万円×(A-20年)
なお、退職手当等の支払いの際に「退職所得の受給に関する申告書」を提出させ、所得税額及び復興特別所得税額を源泉徴収することで、原則として本人の確定申告は必要ありません。一方、「退職所得の受給に関する申告書」の提出がなかった場合には、退職手当等の支払金額の0.42%が源泉徴収され、受給者本人が確定申告を行うことにより所得税額及び復興特別所得税額の精算をすることになります。
(2)解雇処分の有効性と所得税
さて、本件では支給した退職金について、Sさんによる解雇処分を不服とする受領拒否の事実は伺えません。したがって、会社としてはSさんに退職金を支払った際に「退職所得の受給に関する申告書」の提出がない場合の源泉徴収をすることになります。しかし、仮に解雇処分が不当と判断された場合、支給された退職金の処理をどうするのかという問題が出ます。すでに説明したように、退職所得とは雇用関係の終了に伴い支給される金品のことを言うのであり、退職の事実がない以上、支給額の返還を求めることになろうかと思われます。また勤務の継続が認められ、それに対応する支給があった場合、支払金額の計算基準等からみて、他の引き続き勤務している人に支払われる賞与等と同性質であるものは、退職所得ではなく給与所得とされます。
退職という事実は、通常その後の生活に大きな影響が出ます。したがって、退職に伴い支給される退職金は、退職後の生活の糧であり、税負担力の低い所得とみなされています。そのため、他の所得とは別に分離課税による累進税率の適用の緩和や滞納者に対する差押えも制約が設けられています。本件は、まず退職処分の有効性如何により給与所得か退職所得かの判断をすることになり、それによって会社の徴収すべき源泉徴収にも大きく影響が出てくることになります。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRネット沖縄 会長 上原 豊充  /  本文執筆者 弁護士 野崎 聖子、社会保険労務士 上原 豊充、税理士 友利 博明



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