会社が、顧客のニーズに迅速に応えることは、業績向上のために不可欠な要素です。
しかし、業績の向上とは、顧客のニーズに応える一面のみ追うだけで達成できるでしょうか。会社と顧客の間には社員がいます。その重要な役割を担う立場をないがしろにして、顧客に正確な企業理念の伝達は不可能と考えます。よって、顧客満足の実現を目指すと共に、社員満足の実現も併せて考えていかなければ、目標達成までの道程は遠くなるでしょう。そのためには先ず、労働環境の基盤整備が最優先課題です。社員満足の実現により、社員のQ社に対する帰属意識が自然に醸成され、その結果が顧客満足へつながり、業績向上というサイクルができるのだと思います。
さて、本件がここまで発展してしまった経緯の中で、会社および社員の主張を整理してみましょう。
【会社の主張】
(1) 社用車に対する社員の車両管理の甘さ。
【社員の主張】
(1) 会社から社用車の取り扱いに関する明確な基準が提示されていないにも関わらず、青空駐車摘発により裁判所から罰金を課されたこと。
(2) 事後の冷酷な経営者の態度。
以下、お互いの主張の中から社有車に対する取り扱いと本件の解決策をまとめてみます。
1.社用車の取り扱いについて
社用車の管理は、様々な場面を想定した事故のリスク管理が望まれるため、社用車を管理する責任者の悩みは多く、そして尽きないものです。
なぜならば、マイカーを使用した通勤途上での事故であっても会社の責任が免れないこともあり、まして社用車となれば会社に対する責任の追求はより一層厳しくなるからです。
未然の事故を防止するために自動車、特に社用車の使用と管理に関して社内で行うべきことは、次のことが効果的と考えます。
(1)
社用車管理規程の作成と安全運転に関する教育を繰り返し実施すること
(2)
社用車の私的利用を許可された社員に対する事故防止の呼びかけをミーティングや朝礼等で繰り返し行い、また社内報や社内メールを通じて社用車を安全に使用する呼びかけを行うなど日頃のコミュニケーションを通じて再三、社員の注意を喚起すること
社用車管理規程の作成上の主に留意すべきポイント
1)社用車管理部門の明確化
社用車を一元的に管理する部門を明確化しておきます。
その部門では、鍵の保管、社用車の自動車保険の付保状況および自動車税の納付状況の管理、5台以上の自家用自動車を保有する場合は、安全運転管理者の選任、さらに事故が起きた際の対応を行うなどその部門での役割を明確にします。
2)社用車運転資格者の明確化
例えば、社用車を使用できる社員の職種は外勤業務、さらに交通法規を遵守して安全運転ができる者など社用車の使用は会社が許可した社員とします。
3)社用車運転資格者の遵守事項と禁止事項
【遵守事項】
(1)交通ルールの遵守
ア)社用車運転前の確認
近年、道路交通法の改正が相次いでいます。軽微な不注意から大惨事につながったケースなども有り、社用車を運転する社員に対する道路交通法を遵守するという意識の醸成は企業の責任といっても過言ではありません。
よって、運転前の確認事項では、シートベルトの着用、運転免許証の携帯、前日の飲酒状況および疲労度合などを確認し、特に前日深酒をしたり、不摂生な生活で睡眠不足というような状況であれば社用車の運転を禁止する運転前の確認措置が必要です。
【禁止事項】
ア)飲酒運転
自動車を運転する際には飲酒運転は厳禁です。平成13年刑法に「危険運転致死傷罪」(刑法208条の2)が新設、道路交通法(以下、道交法という)では、平成14年飲酒運転に対する罰則が強化され、さらに平成16年飲酒検知拒否に対する罰則が引き上げられるなど、飲酒運転に対する取締りの強化が相次いで行われました。これは、飲酒運転によって引き起こされる事故が見過ごすことができないものとして切実に受け止められた当然の帰結です。会社でも罰則を意識した教育のみならず、飲酒運転によって引き起こされる悲劇的な事故の結末を盛り込んだ教育が必要です。
イ)運転中の心身疲労の回復
労働時間の把握とも関連がありますが、社用車の運転が長時間連続する場合は、適宜休憩をとり、心身の疲労を回復するようにしましょう。
特に、労働時間の算定が困難で、かつ会社の指揮命令がおよばない外勤社員について「みなし労働時間制」の制度を導入している会社は、休憩時間の取得にも気を配り、心身疲労の回復を呼びかけましょう。
ウ)走行中の携帯電話の使用
自動車走行中の携帯電話の使用等による罰則の強化は、道交法により平成16年11月1日より施行されましたが、現在も走行中に、片手に携帯電話を持って通話しながら自動車を運転しているドライバーをよく見かけことがあります。運転中に携帯電話を片手に持って画面を注視することはもちろんのこと、イヤホンマイクを使用した上での通話も注意散漫になることがあります。自動車走行中の携帯電話使用は事故に繋がりやすいので、使用は全面的に控えるべきです。
その他の禁止事項として、休日等私用で社用車を運転すること、業務に無関係な人の同乗などが挙げられます。
4)自動車の整備と点検および修理について
法定点検はもちろんですが、日頃から事故を未然に防止するために社用車の整備と点検は不可欠です。よって、社用車使用前後の点検業務を徹底し、整備不良が原因で事故を引き起こすことのないように整備と点検を徹底させます。また、定期的に社用車管理部門の担当者による整備状況の確認を行うなど、整備状況の確認に万全を期す体制は不可欠です。
さらに修理を要する場合は、修理を速やかに実施できるよう修理依頼の社内手続き方法、修理工場の指示、修理代の負担、修理期間中の代用車両の措置を定めます。
5)駐車場
ア)社外での業務中の駐車ならびに終業後の指定場所への駐車について
平成16年の道路交通法の改正により、違法駐車対策もより強化されることになり、従来、反則金の支払いは違法駐車をした運転者に対してのみ支払いを命じていましたが、今後運転者が支払わない場合は車両の使用者(車検証に記載されている管理者)に対して、放置違反金の納付命令が下されます。万が一、違反金を滞納した場合は、違反車両の車検は拒否されることになります。
上記は公布の日より2年以内に施行されますので、「違法駐車は社員個人の問題」として放置していたような場合は、その改善が急がれます。
6)直行直帰の際の社内手続きと自宅での社用車の保管について
社用車を私用で利用することを防止したり、車両の破損や事故を防止する意味で、社用車は会社指定の駐車場に保管した方が得策です。しかし、自宅から顧客先への直行もしくは、顧客先から自宅への直帰も業務上考えられる場合は、自宅での社用車に関する保管方法等の取り決めを周知することが必要です。
【社内手続き】
ア)社用車で帰宅する時は、会社へ届出書を提出して許可制とする。
その際、会社は自宅に持ち帰る必要性、期間、および保管場所を明確にして許可します。
【社用車の保管】
イ)社用車の路上駐車禁止
社用車の路上駐車は、付近の住民に迷惑を掛けるなどトラブルの要因にもなりかねません。特に会社名が入っている社用車が違法駐車をしている場合は、地域住民から会社のモラルが問われるなど、いくら本来の業務で顧客満足を目指していても、業務以外で会社に対する評判が落ちてしまうことになります。よって、自宅に保管場所がない場合は、自宅への社用車持ち帰りを禁止する規定が必要です。
駐車場を借り上げる必要性がある場合は、当該駐車場の契約手続き方法、場所、料金の負担方法等を明確にして、社用車の適切な保管を行います。
その他、自宅で社用車を保管する際には、私用もしくは第三者の利用を禁止する、盗難および破損には十分気をつけることなどが挙げられます。
7)交通事故の対処方法について
万が一、社用車で交通事故を起こした場合は、社員が心理的に動揺することも多いと思いますが、初動対応が大切です。
特に、社員が加害者となり負傷者が出た場合は、直ちに負傷者の救護、危険防止等の各措置、警察および会社への連絡など短時間の間にその場でしなければいけないこと、さらに事故後の会社への報告や手続きなどを予め定めておくと、いざという時に戸惑うことなく対処できます。
8)交通違反者に対する取り扱い、罰金および損害賠償の請求について
社用車の運転資格者は、交通法規を遵守することが前提条件となりますので、交通法規を違反した社員に対しては、違反の度合いに応じて、就業規則に制裁の種類を定めると共に社用車管理規程には、制裁の基準、罰金、科料または反則金を課金された際の支払い、損害賠償請求、会社からの求償等詳細を定め、交通法規に違反した社員は厳重に処分するという会社の姿勢を見せることが必要だと思います。
2.本件解決策のポイント
本件は、Q社の主力業務であるデリバリー販売で使用する社用車の貸与に関して、明確な基準がなかったことが大きな要因のひとつです。今回の罰金の支払いに関しては、社員が青空駐車をしたという過失はあるにせよ、Q社は社用車の管理について何ら対策を講じていなかったという会社側の落ち度もあることから、駐車違反に伴う違反金やそれに伴うレッカー移動料金などの諸費用の支払いは、社員と会社双方で負担し、裁判所に出向いた日の欠勤は年休の事後振替として取り扱うことがトラブル解決策の近道だと思われます。
また、営業社員の在社回数を現在よりも数を増やし、経営者をはじめ上司や同僚とのコミュニケーションを図っていくことも今後の改善策の課題として挙げられるでしょう。
利害関係者(ステークホルダー)のニーズに応える
企業に係る利害関係者は、顧客だけではなく社員、取引先、株主、地域社会とさまざまです。小さな綻びを何度も見過ごしてしまったために、これが大問題に発展し、企業の社会的責任を問われ、顧客の信頼を失墜した結果、会社の業績に大きな影響がでることも考えられます。先ずは、企業に係る利害関係者の声に耳を傾け、さまざまなニーズや問題点を把握し、それらを見過ごすことなく、一つひとつ解決していくことが、これからのQ社の課題であり、業績向上の手段なのではないかと思います。 |